
金融危機でアメリカの消費者による大量消費に頼ることができなくなった世界経済は、今、大きな転換を迫られています。日本として日本企業として、これからどこに活路を見出していくのか。今後人口減少に直面し国内需要の拡大が難しい中で、成長の基盤確保が根本的課題となっています。切り札として日本企業や政府が熱い視線を注いでいるのが、成長するアジア。日本や欧米先進国がマイナス成長に落ち込む一方で、中国が上半期に7.1%の成長を確保するなど、世界で唯一、地域として5%以上の成長を見せています。こうした中でアジアは、地域全体のマーケットとしての魅力がますます高まっていまして、この地域の成長を日本の新しい成長に積極的に結びつけていこうという動きが活発になっています。
アジア新戦略、1回目は、電力、上下水道、鉄道、道路、さらには通信などアジア各国の巨大なインフラ整備ビジネスの獲得を目指して、しのぎを削る日本の姿です。電力のない地元の人々の生活ニーズに答える新たなビジネスモデルを提案したり、インフラの建設に留まらず、運営・維持・管理まで請け負い、長期的に収益が得られる新たなインフラビジネスを目指す動きなどが活発に進められています。しかし、このインフラ市場への参入を目指す各国間の競争は非常に激しく、受注を目指して政府・企業はどのように連携しながら取り組んでいくのか、新たな模索も行われています。
まずは、中国とアセアン諸国とを繋ぐ物流と生産の拠点として存在感を増すベトナムで、インフラビジネスの実態を見ていきます。

日本の新戦略“インフラビジネス”
金融危機後も年5%の成長が続くベトナムで、東名高速道路などの運営を手掛けるネクスコ中日本が、交通渋滞の解消に向け動き始めています。全国を網羅する5900キロもの高速道路の計画に参加し、建設だけでなく運営まで手掛けようとしています。ベトナムのインフラ事業には、世界中の企業が参入しています。アセアン最大規模の港の建設をめざすプロジェクトには、7か国の企業がコンテナターミナルなどの運営に参入、アメリカ企業は、ベトナム政府から50年間の事業権を獲得し大型船舶の停泊料など年間17億円以上の収入を見込んでいます。ここ数年、目立っているのは中国。毎年大量の労働者がベトナムに来て、住み込みでインフラ整備の仕事をしています。
世界各国の企業との競争をどう勝ち抜くのか。日本が力を入れているのは、政府と企業との連携です。ベトナム計画投資省で開かれたインフラ事業の会議には経済産業省と企業およそ50社の代表が出席、日本側は、企業から募った発電や交通事業など4件の計画を提案し技術の高さをアピールしました。

企業と政府の連携の効果が期待できるのが電力の分野です。電力不足のため首都ハノイ近郊でさえ年間100回を超える計画的な停電が実施されるからです。日本の官民をあげて取り組むプロジェクト、ベトナム最大の発電量を誇るフーミー火力発電所。日本政府が加わることで、民間企業だけで出来なかった大型発電所が作られ、電力の安定供給が実現しました。

民間企業には負担が大きく利益に結びつかない用地の造成や送電線の整備などを日本政府の資金で行った結果、日本企業が発電所を建設し、維持管理や運営で利益を得るインフラビジネスに参入できました。ベトナムへの貢献にもなり日本にとってもメリットになるインフラ事業を、政府は今後も積極的に後押ししていくことにしています。経済産業省資金協力課の村山勝彦企画官は、次のように話しました。「成長するアジアとともに歩む視点すごく大事だと思っていて、日本の成長戦略に十分寄与すると思っています」。

インフラビジネス”を狙え
ゲストは、開発経済学が専門の慶応義塾大学教授、木村福成さん。木村さんは、電力の分野では、「官」と「民」連携(官民連携=PPP)のビジネスモデルが確立して、かなり競争力を持っている。しかし、都市交通や港湾、上水道、行政サービスなどの分野では、どのように官と民の役割を切り分けるのか決まっていない。アメリカやヨーロッパの企業は、多くの分野で海外進出の時期が日本よりもかなり早いが、それは、港湾や上水道などの分野が早く民営化した結果だ。建設とオペレーションとの両方をパッケージにして売るというビジネスモデルは欧米の方が先に始まっている、と話しました。
途上国側が、建設だけではなく管理・運営までパッケージで受注してもらいたいとしていることについては、外国に建設してもらったがその後うまく使えないというケースが過去にたくさんあったことから、オペレーションにも外国の技術を導入したいという意向がある。また、現地政府としては、なるべく自分たちの支出を減らしたい、外国の民間企業がお金を持ってきてくれて、オペレーションの部分でリターンを取ってビジネスとしてやってもらいたいという思惑もある、と解説しました。
日本がインフラビジネスの分野で競争力を高めていくための戦略を2点指摘しました。一つは、鉄道を時間通りに運行できるとか、おいしい水道水を提供できるなどの日本の優れた技術を単体で売るのではなく、パッケージとして売ること。もう一つは、リスク対策。鉄道を造るプロジェクトなのに元々予定になかった高速道路が横にできてしまうなどプロジェクトには様々な政策リスクや為替リスクが生じ、収益の誤算にも繋がる。このため、一体誰がリスクを分担するのか、事前契約の段階で盛り込んでおくことが必要だ。さらに、事後に色々な紛争が出てきた場合に、それをいかに解決していくか、コーディネーション能力も極めて重要だ。人材の育成も鍵になる。





