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リポート

復興への知恵を多くの人に役立てていただくために、講演やトークセッションの模様をテキストで公開しています。

三陸から漁業は生まれ変わる
~岩手・陸前高田市広田町~

  • 開催:2012年3月25日(日)
  • 放送日:【総合】2012年4月22日(日)午前10時05分~10時53分

被災地に全国から知恵ある人を招き、住民と共に復興への道筋を探る「復興サポート」。新年度の第1回は、漁業が壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市広田町です。太平洋に突き出た広田半島に点在していた漁村は津波にのみ込まれ、300軒を超える家々や50人以上の命が失われました。あれから1年、浜ではようやく漁業が再開され始めました。しかし、地元の漁師の中には、将来の生活に不安を抱く人も多くいます。番組では、震災を機に、「三陸から新しい水産モデルを」と唱える三重大学の勝川俊雄・准教授を現地に招き、「持続可能で儲かる漁業」の実現の道を探りました。

復興サポーター:勝川俊雄(三重大学准教授))
番組ナビゲーター:迫田朋子(NHKディレクター)

三陸から新しい水産モデルを

 復興サポーターの勝川俊雄さんは、三重大学で水産資源の保護や日本の漁業のあり方について研究してきました。そして、これまでノルウェー、カナダなど世界各国の漁業の現状を調査し、日本の漁業改革ついても提言してきました。また、震災後は、いち早く被災地に足を運び、漁師たちの声に耳を傾けてきました。最近、勝川さんのもとには、漁業者からの相談メールが数多く届きます。その中には、広田町からのメールもありました。 「私の周辺では将来を不安に感じている若手漁師がたくさんいます」「もしよろしければ、広い視点から見た養殖業等お話を伺えたら、と思っています」。こうした声に応えるため、勝川さんは広田町に向かうことになりました。

 3月25日、広田町の公民館に勝川さんと漁師たちの話し合いの場が設けられました。会場に集まったのは、地元広田の漁師やその家族です。沿岸で漁をしている人、カキやワカメの養殖をしている人もいます。勝川さんは、ゆっくりと話し始めました。「『震災によって、これまでのものを失ってしまった。どうせまた作るんだったら、未来につながるものを』という声が僕の所にたくさん来ています。『漁業を変えたい、漁業を変えよう』という当事者の声が、いま非常に高まっています。これまでのやり方を変えていくことによって、今の漁業をより魅力的なものに変えていくことはできると思うのです。ぜひ、この土地の漁業をより魅力的に、よりいい状態で次の世代にバトンタッチできるような形で復興していく。そのためにわれわれが何ができるかということを一緒に考えてみたいと思います」

三陸漁業の現状とその課題(VTR)

 話し合いの初めに、勝川さんはまず漁業の現状と課題をVTRで漁師たちと確認することにしました。 広田町の戸羽喜久男さんは毛ガニ漁をしています。20キロの毛ガニを市場でセリにかけ、3万円の収入。この3万円から、燃料代7500円、えさ代1500円、市場の手数料1500円を差し引くと、手元に残るのは、およそ2万円。さらに船の修理代、道具代に、その補修代もかかります。しけの日は海に出られないために、漁に出られるのは月にせいぜい7~8日程度。収入はなかなか伸びません。
「いい暮らしをしていれば、子供らも安心して漁業に入ってくれると思うんだけど、親があまりいい暮らしをしていない、仕事はきつい。そういう漁師にいくら息子でも入ってこないのは当然だと思う」

 養殖の場合も厳しさは変わりありません。ワカメを養殖する畠山修さんは、津波で船を失い、今は仲間と共同で作業しています。震災以前、ワカメによる収入は、およそ300万円でした。それが、津波で船や養殖施設を流され、生産量が減少、収入は半分に減りました。家族4人、ぎりぎりの生活です。 「息子が大学に行ってるんで、それに仕送りすれば、あとどうやって生活するのよって感じですよね」。

 広田町の漁業の現状と課題についてVTRで見たあと、勝川さんは、現在の水産物の流通ルートについて説明しました。漁業者がとった魚が消費地に送られるまでに、「漁業者→組合→産地仲買→荷受け→仲卸→小売→消費者」という多くのプロセスがあります。そして、「これだけ大勢いて、じゃあ、誰が儲けているのかというと、実は誰も儲けていない」と、厳しい現状を明らかにします。たとえどんなに相場が崩れても、この唯一の流通ルートに乗せるしかない。損するとわかっていても、売るしかない。勝川さんは、この現状を変えるには、従来の販売ルートだけではなく、それ以外の販売ルートを開拓して、複数の売り先をもち、最低限の利益は確保できるようにすることが大切だと提案します。

漁業再生他のための先進事例1(VTR):カキ小屋の試み~宮城県石巻市

 「複数の販売ルートをもつ」。この点から勝川さんが注目している取組みが、宮城県石巻市にあります。地元のカキを炭火で焼いて食べる「カキ小屋」です。この店は、地元の漁師と組合が、ある外部の販売業者とタッグを組むことで実現しました。

 店のオーナー、齋藤浩昭さんは、長年カキの産直を手がけてきた販売のプロです。齋藤さんは、被災地を支援するため、カキの販売ルートを広げたいと、このビジネスを始めました。カキが消費者に届くまでには、通常、多くの業者が関わります。しかし、今回は、漁業者と消費者の間に組合とカキ小屋だけが関わるシンプルな形にしました。

 カキ小屋ができて一番喜んだのは、地元でカキを養殖する漁師たちです。カキ1個あたりの買い取り価格は、流通コストが減ったことで、13円から35円、ほぼ3倍に跳ね上がりました。また、消費者にとっても大きなメリットがありました。カキの価格は12個で1000円。通常の殻付きカキのおよそ3分の1という安さです。さらに組合にとっても、出荷が増えるほど、販売手数料が入ります。

 齋藤さんは、さらに新しい販売ルートの開拓に乗り出そうとしています。「カキを海外に輸出する」プロジェクトです。カキは、日本ではほとんどが「むき身」で出荷されますが、海外では「殻つき」が主流です。そこで、形がそろっていて見た目も美しいカキを養殖し、国際市場に打って出ようというのです。すでに、本場フランスの生産者を招き、直接技術指導も受けました。この事業に、漁師たちも協力を申し出ました。海外へのルートができれば、収益はさらにアップ。初めての出荷は来年の秋に予定されています。

 VTRで会場に流された石巻市のカキ小屋の事例は、組合と漁業者と販売業者の3者が協力して、従来のルートとは別の売り先を作り出しました。それを受けて、勝川さんは大切なのは「外のパートナー」であることを指摘します。 「餅は餅屋でないですけど、魚を売るノウハウがある人、スピード感、人脈、そういうものを持っている人と組む、そしてまた組むことによってウィンウィンの関係を作る。つまり、どっちも利益が出るような、そういうタッグを組むことで、選択肢を広げて高く売る方向に進んでいける」。

漁業再生のための先進事例2(VTR):島まるごとブランド化~島根県海士町

 勝川さんは、もうひとつ漁業再生のための先進事例を示しました。島根県の離島。隠岐・海士町。ここでは「島まるごとブランド化」というプロジェクトが進められています。その代表的な例が、岩ガキの養殖。通常、夏に水揚げされることが多い岩ガキですが、ここでは時期を早めて「春」に出荷しています。

 12年前、岩がき養殖を始めた鈴木和弘さんは、神奈川県から海士町に移り住んだIターンです。海士の岩ガキの成分を調べたところ、栄養価が高く最もおいしいのは「春」だと判明。そこで岩ガキを「春香(はるか)」と名づけました。ターゲットは、大都市のレストラン。セールスポイントは「離島の海で育った春の岩ガキ」。そのイメージは消費者の心をつかみ、今では全国で、およそ300軒のレストランが扱うまでになりました。鈴木さんのもつ都会の視点が、この成功をもたらしたのです。
 養殖を始めてから12年間で、岩ガキの生産量は75倍に伸びました。今や海士町を代表するブランド品です。町役場もこの取り組みを応援するために、予算を投入して、最新の冷凍システムを導入。とれたてのおいしさを消費者に届けることができるようになりました。

海士町には、さらにユニークな取り組みがあります。島の外から若者を招き、「商品開発研修生」として、島の魅力の掘り起しに一役買ってもらおうというのです。研修生は、役場の臨時職員となって島に住み込み、特産物づくりに知恵を絞ります。地元の漁師に案内されて、さまざまな食べられる貝や海藻について学んだり、漁師のお宅で、島の家庭料理をごちそうになったりしながら、特産物づくりのヒントを探していきます。こうして商品開発研修生の「外の目」を活かして、実際にさまざまな島の特産品が誕生しています。年間3万食のヒット商品となった「さざえカレー」も、こうして生まれた商品のひとつです。  海士町の山内町長は、町には宝物が埋まっていることをIターンの人々から学んだと言います。「若い人に知恵をつけられたというか、島ではありふれたものでもオンリーワンになる可能性があるなということがわかったんです」。

 勝川さんは、話し合いの会場に海士町のブランド品である岩ガキの実物を持ってきていました。「“春香”というブランド名で売っているんですけど、大体これがひとつ1000円、インターネットで販売されています。これ、もうちょっと大きいサイズになると、1個1200円とかで、結構売り切れになっているんですよね」。  カキの養殖業者の畠山さんは、「あり得ない値段ですね」と驚きの表情。
 勝川さんは、海士町の岩ガキの成功のポイントは、島を丸ごとブランド化したこと。離島であることを逆手にとって、離島には豊かな自然があることを強調し、その中で育った大きな岩ガキに希少価値を持たせることに成功したと言います。勝川さんは、「1000円というと自分で食べるには高い。でも、贈答品の需要には応えられる。離島の豊かな自然に育まれたという魅力的なストーリーは、とても効果的」だと話しました。

広田町のオンリーワンを探す

 海士町の試みを参考にして、広田町にも他にはないオンリーワンがないかどうかを、会場のみんなで話し合うことになりました。

 会場にいる何人もの女性たちから、次々と声が上がります。「岩場にある鷹の爪は珍しいしおいしい」「浅瀬にいっぱい生えているツノマタを捨てているのはもったいない」「早採りワカメは岩手では広田町が一番早いのではないか」「売りものにしていないテングサがある」などなど。ある女性は、町で海産物の販売をしたときに、広田ならば誰も拾わない小さなツブ貝を、都会の人はおいしいと言って食べるし、高く買ってくれるので、意外に思ったという体験を話してくれました。
 勝川さんは、「広田は海の幸が豊か過ぎて、広田にずっといたらその価値に気づかないかもしれないですね」と、話しました。そして、「広田の価値を発掘できるのは、もしかしたら外から来た人かもしれない。外から来た人と一緒に発掘していくと、思わぬ宝が出てくるんじゃないかと思います」と続けました。
 次にVTRで紹介されたのは、その「外からの視点」を入れたことで新たな販売ルートを開拓した事例です。

漁業再生のための先進事例3(VTR):顔が見える漁業~宮城県石巻市

 去年8月、宮城県石巻市・雄勝町に新しい漁業の会社が誕生しました。その名も、「オーガッツ」。雄勝町の漁師と、都会から雄勝町に移り住んだメンバーで立ち上げました。
 「オーガッツ」が目指すのは「顔が見える漁業」。消費者と直接つながることに力を入れています。まず始めたのは、「育ての住人」という一口オーナー制度。漁業を再開するための資金として都会の消費者から一口1万円を集め、お礼として希望の海産物を届けます。また、地元のイベントにも招待し、実際に漁業を体験してもらいます。初めて漁船に乗り、ワカメの収穫などを手伝って歓声を上げる親子連れなど、都会の消費者たち。一口1万円の育ての住人は、すでに2千人を越えています。

 VTRで紹介された「オーガッツ」代表の伊藤浩光さんは、会場にも来てくれました。伊藤さんは、「体験漁業ツアー出来てくれた子どもたちに、おいしい!と直接言われると、漁師はもっとおいしいものを作ろうという気持ちになる。顔が見えることの相乗効果だ」と言います。また、都会の人は海の幸のありのままの姿がわからないので、ワカメを細かく切断せずに原形のまま真空パックにしたものを送ったら、その形に驚くとともに、「磯の香りがする」と感動してもらい、注文が何回もきたという経験を語ってくれました。
 会場では、オーガッツのイベントでもふるまわれた、めかぶのしゃぶしゃぶが実演されました。茶色いワカメが、お湯を通しただけで鮮やかな緑色に変わります。
 「これを見た都会の人の感動っていうのは、たぶん、皆さんは共有できないですよね。毎日見ているから」。勝川さんは、地元の人にとっては珍しくも何ともないものが、都会の人にとって感動的であることに注目してほしいと言います。
 「都会の人が求めているのは、鮮度が良くておいしい、というだけではないんですね。消費者の反応を知るためには、都会の人と交流することが大切です。」勝川さんは、体験漁業ツアーのようなイベントを仕掛けることで、広田のイメージアップを図り、訪問者を増やしていくことが重要だと言います。

自然の魅力が水産物をブランド化する

 勝川さんは、広田のオンリーワンを探し、新しいブランド品を作り出すために、広田の土地の魅力について、語り合うことを提案しました。会場から、次々に声が上がります。
「広田って言ったら、半島だべ。有名だもんね。あの半島を航空写真に撮って、ラベルにしたら絵になるよ」 「ひょうたん島みたくなってるからな」
「遊歩道がいっぱいあるんだけど、そこの遊歩道を整理したらば、すごい見事な景色がいっぱいあるとこがあって、そこを降りていくといろいろな海藻がある」
「広田半島ってとこは平均気温からすると、岩手でこれくらい暖かいところはないんです。特に冬場は黒潮の影響をもろにあびますから」
「ビワとか、タケとか、それから亜熱帯植物、それからお茶。それから早咲きのスイセン・・・・。」

 会場では、漁業のことを離れて、広田の土地の魅力が語られました。ある女性は子ども時代の原風景を語り始めました。 「広田は、半島なので、海に突き出しているから、1番先に太陽が昇る、1番先だよって、学校で教わったことがあって、黄金に海が光るんですよ、すごくね。太陽が昇るときに、すごく黄金に光るので、あーここは黄金郷だなと思って過ごしてきたんです・・・。そんな感じで、すごくきれいな町だな、海だなって」

勝川さんは、水産物のブランド化をはかるには、水産物だけではなく、自然や風土も含めて総合して考えていく必要があると言います。つまり、ブランド品作りは、そのまま地域全体の魅力を掘り起こすことであり、町おこしにもつながっていくことになるのです。勝川さんは、それを自分たちだけではなく、外からきた人も交えてやることが重要だと強調しました。会場に集まった地元の漁師からは、早く行動を起こしたいという、未来に向けての積極的な言葉が聞かれました。
「こうやって全国からボランティアでいろいろな知識持った人が来てるんだから、迷うことなくさ、利用するって言えば、来た人には申し訳ないけど、今、利用できる一番チャンスだからさ、そうして前に行くしかないよ」 「一人ではできないことも、いろいろな人たちとのネットワークを作ることによって、実現可能だなって、今はとってもワクワクするっていうか、そんな思いでいます。で、それを実現しなければならないっていう責任感みたいなものを感じますし、がんばっていきたいと思います」
「やっぱり、ここにいる人たちが心を決めて、本当に我こそって思ってやっていかないことにはダメなのかなって、ここにいる人たちが自覚を持って、自分たちで盛り上げるんだっていう気持ちを第一にもってやっていくことが大事なんだな、ということを教わったような気がします」。

まとめ 「青い鳥を見つける」

話し合いの最後に、勝川さんは、一冊の本を取り出しました。メーテルリンクの童話「青い鳥」です。
「『青い鳥』は、皆さん、ご存じだと思います。チルチルとミチルが青い鳥を探していろんな国を旅して、帰ってきたら、実は、自分の家にいましたよという落ちなんです。じゃあ、このチルチルとミチルは、自分の家にずーっといて、青い鳥を見つけられたのか、そうじゃないんですね。やっぱり、外の国を回ることで、いろいろな幸せがあることを理解して帰ってきたら、そこにあった。
 同じように、日本の田舎はいろいろな宝物が眠っています。ただ、その豊かさが、当たり前のようにあって、豊かなところだけにいた人はわからない。だから、これからは、都会の人と一緒に協力して、この広田の豊かさというものを再発見していく、発掘していく・・・・」

 「僕は、必ず漁業は生まれ変わる。三陸から日本の漁業は生まれ変わると思っています。ぜひ、皆さんの手で、日本の漁業を変えてください」
 勝川さんは、誰もが知っているメーテルリンクの童話になぞらえながら、広田の漁師たちに、広田だけではなく、日本の漁業の再生の夢を託しました。漁師たちは、勝川先生と熱い握手を交わし、会場を後にしました。

勝川俊雄さんプロフィール

勝川俊雄(かつかわ・としお)三重大学生物資源学部准教授

1972年東京生まれ。東京大学農学生命科学研究科にて博士号取得。東京大学海洋研究所助教を経て現職。

研究の傍ら、政策提言のほか、漁業者や消費者とともに持続可能な水産資源管理や漁業の制度改革に向けて活動を行う。著書に『日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる』。