トップページ » 復興サポート » 2012年度までの放送 » 地域ミーティング 放射能汚染からの農業再生

リポート

復興への知恵を多くの人に役立てていただくために、講演やトークセッションの模様をテキストで公開しています。

地域ミーティング 放射能汚染からの農業再生
〜福島・南相馬市〜

  • 開催日時:2012年2月22日(水))
  • 開催場所:福島県南相馬市 ひがし生涯学習センター
  • 放送日:【Eテレ】2012年3月10日(土)午後3時00分〜3時59分

地域ミーティング第3回は、福島県南相馬市で開催しました。会場はひがし生涯学習センター。参加者は地元で有機農業を営んでいる農家の皆さんです。議論のテーマは、「放射能汚染からの農業再生」。チェルブイリ原発事故の汚染地帯で農地を再生させる活動を続けてきた分子生物学者の河田昌東さんと共に、放射能に汚染された大地で、農業を再生させることは可能か、どうすれば安全な農作物を栽培することができるのか探ります。

復興サポーター:河田昌東(分子生物学者)
番組ナビゲーター・語り:迫田朋子(NHKディレクター)

今回の復興の河田昌東さんは分子生物学者であり、生物の営みを分子レベルで解析する専門家です。名古屋大学理学部で研究生活をしていた1970年代、四日市ぜんそくの調査に当たったことを機に、各地の公害問題に科学者の立場から取り組んできました。チェルノブイリ原発事故の後は、ウクライナの被災地で、医療支援や農地の再生などさまざまな活動を続けてきました。そして「チェルノブイリで学んだことを日本に還元したい」という強い思いから、いまは福島の農業再生のお手伝いも始めています。

1)風評被害を乗り越えるために。

 会場の農家の方々からは、まず福島の現状に対する不安の声が上がりました。 「福島のコメは勘弁してくれろというのが実態です」
 「生産者も消費者も同じだったと思いますけれども、(当初は)なるべく大したことはないんだというようなことで処理しようとしたところに風評被害が生まれてしまった」
「私のうちでは直接販売していたのですけど、若い方はもう即いらない、ダメだというんですね。・・・・やっぱり若い方にわかっていただかなくてはならないと思うのですよね」

 福島第一原発の事故を受けて、国は昨年4月、警戒区域、緊急時避難準備区域、計画的避難区域の全てで、コメの作付けを制限すると発表しました。一方、その他の地域では、コメや野菜などの農作物を作ってもよいとしました。
例年よりは遅れたものの、多くの地域でコメの作付けが始まりました。そして収穫の秋。福島県は県内1174地点で玄米を検査、全て暫定基準値の1キログラムあたり500ベクレルを下回ったと発表しました。

 しかし、全面出荷から1カ月後の11月中旬。衝撃が走りました。福島産の玄米から次々と暫定基準値を上回る放射性セシウムが検出されたのです。消費者の信頼を結果として裏切る形となってしまった福島のコメ。昨年作付けをしなかった南相馬の農家は、こうした状況のなかで、震災2年目の春を迎えています。

 この日集まったのは、これまで土作りにこだわり、有機栽培でコメや野菜を作ってきた農家です。農薬や化学肥料を使わずに農作物を育て、「食の安全」に関心の高い消費者に直接届けてきました。これまで安全な作物づくりに心を尽くしてきた人々だけに嘆きは大きく、また消費者に納得してもらえる農作物でなければ、出荷できないという思いが強くあります。

 河田さんは、まず風評被害の原因は暫定基準自体に問題があると指摘します。
「やはり500ベクレル/kgは高過ぎた。実際には、福島の米は、ほとんどが50ベクレル以下なのですけれども、基準以下だと言われただけだと、消費者は、じゃあ490かも知れないと思っちゃうわけですね。これが風評被害を生んだと思います」
今年の10月からコメの基準値は100ベクレル/kgに下げられることになっています。河田さんは、さらに放射能を減らす工夫と、消費者の方たちに納得してもらえる科学的根拠に基づく説明が大事だと言います。
「ちゃんと測定して、これはこういう理由で低いんですと説明すれば、消費者は納得すると思います。みなさんが現場で栽培されているものは、100ベクレルだって超えないものがほとんどなわけで、いろいろな工夫をすれば、それよりも、もう1桁下げることができる・・・それを、いかにして消費者に説明して納得してもらえるかということが大きな課題かと思います」

栽培の方法によって放射性物質を減らす

 福島県須賀川市の伊藤俊彦さんは、有機農業を実践する農業生産法人の代表を務めています。昨年、河田さんのアドバイスを受けながら、放射能を防ぐためのさまざまな実験を試みました。その実験の成果を伊藤さんご自身に発表してもらいました。

○工夫1 ゼオライトによる吸着
 ゼオライトと呼ばれる鉱物を、青いネットに入れて、田んぼの水の取り込み口に、土嚢のように置きます。ゼオライトは、セシウムを捕まえる性質があるとされ、チェルノブイリ原発事故の被災地でも使われてきたものです。
 セシウムは山林などから流れてくる水に入って移動し、農地にも流れ込みます。そこで、ゼオライトにセシウムを吸着させて、農地が汚染されることを防ごうとしているのです。また、ゼオライトを粉末状にして、直接農地にも撒きました。セシウムは水に溶けて、農作物に吸収されます。それを減らすために、農地にゼオライトをまいて吸着させ、農作物に入るのを防ごうとしたのです。

○工夫2 カリウムで吸収を抑制
 稲が成長する時期には、カリウムの肥料を散きました。これも河田さんからチェルノブイリ原発事故の汚染地域で成果を上げたということを聞いたのです。  カリウムは農作物に必要な栄養素ですが、セシウムと化学的に似た性質を持っています。カリウムが少ない農地では、作物は、カリウムと一緒に、よく似た性質のセシウムも吸収してしまうと考えられています。そこでカリウムを農地に多く入れることで、セシウムが吸収される割合を抑えようとしたのです。

 上記の実験をして、伊藤さんは、昨年341枚の田んぼから玄米を摂取し、放射能を測定しました。結果は、平均3.1ベクレル/kgで、134枚は1ベクレル以下。一番高いところでも、20ベクレルを超えるところは1枚もなかったそうです。
 この実験結果を聞いて、作付け前に悩んでいた伊藤さんの仲間も、より安全性を高めるための心構えができたといいます。そして、「今年はゼロを目指そう」と代表の伊藤さんに告げたそうです。

 伊藤さんはその結果をすべて地図に書き込み、さらに分析を続けます。
「赤いところは線量の高いところ。次が紺色のところ。緑色は5ベクレル以下のところなんですね。高いところはほとんど山あいと住宅の近くです。大きな建物とか大きな団地、その排水が入るところは線量が高い」

 山の沢水が入るところや住宅地の排水が流れ込む田んぼには、注意が必要なことがわかります。また、耕作放棄地は放射性物質がそのまま残っているので、その周辺も気を付けた方がいいと指摘されました。

 会場の農家の人々に対して、伊藤さんは、「安全基準がこうだからというのではなく、自分自身で満足できる目標をもってほしい」と訴えました。
 会場からは、ゼオライトの代わりに、モミ殻を吸着剤として用水路に入れたという話も出てきました。モミ殻は農家にとってはお馴染みのもので、費用もかかりません。提案したのは、南相馬市で有機農業を指導してきた稲葉光圀さんです。
 河田さんは、まず農地の土壌の汚染地図を作成することが必要と訴えた上で、汚染を減らすためのさまざまな方法を試す必要があると、稲葉さんの試みも支持しました。
「モミ殻はケイ酸質で、セシウムを吸着する働きがあります。表面にトゲ状のものがあるので、かたまりにすると濾過機能もあります。吸着と濾過の作用によって、用水路のセシウムを捕まえることができるかもしれません。・・・水田の汚染をどうするかというテーマは世界で初めてなんですね。ですからいろいろな方法で試してみる必要があります。それから整理して、どういう順番にやったらいいか。これからまた新しい発見が出て来る可能性もあり得ますので、少なくとも今までわかっていることを土台にしてさらに改善するということが大事かと思います」

アンモニウムイオンがセシウムを遊離させる

 会場には、発酵肥料をもった人もいました。安川照雄さんは有機肥料にこだわり、研究を重ねてきた農家です。ところが、肥料を作る際に発生するアンモニアが、農作物の放射能汚染を促進させる可能性があると指摘されたことから、不安に思っています。
 河田さんはアンモニウムイオンが、土に付着させたセシウムを遊離させるのは事実だとする一方で、完熟させた(十分に発酵の進んだ)肥料では、アンモニウムイオンは別の物質に変化し、問題ないとアドバイスしました。また、河田さんは、それに関連して、各地で暫定基準値を超えたコメが収穫された理由についても、自分の考えを述べました。
「例えば、二本松などで汚染したおコメが取れたのですが、あれは山の水が直接入った田んぼですよね。私が思っているのは、流れ込んだセシウム、それプラス、夏の間に落ち葉が腐食し、アンモニウムイオンが発生して、それがいっしょに流れてきて余計吸収されやすくなったんじゃないかと推定しています」

畑ではどんな作物を作るのか

 次に、水田のコメ作りの話から、畑の作物の話に移ります。どんな作物をどのように栽培したらいいのか。河田さんは、農作物の放射能汚染を考える場合、2つの要素が重要だといいます。ひとつは土壌、もうひとつは野菜の種類です。同じ野菜でも、土壌の性質によって野菜が大きく汚染される場合と、それほどでもない場合があります。また、同じ土壌でも、野菜の種類によって汚染しやすい野菜と、しにくい野菜があり、汚染しにくい野菜を選んで植えれば、より安全な農作物を作ることができると言います。
 チェルノブイリ原発事故の被災地では、さまざまな種類の野菜について測定がされ、放射性物質を吸収しやすい野菜と吸収しにくい野菜が明らかにされています。

このグラフは、シベリアなどで見られる酸性土壌(ポドゾル性砂質土壌)の場合のデータです。トマト、ナス、カボチャ、キュウリなどのナス科やウリ科の植物は汚染しにくく、上の方にあるキャベツ、ダイコンのようなアブラナ科の植物は汚染しやすいことがわかります。
 しかし、このようなチェルノブイリ被災地のデータと比較して、福島の土壌で作られた野菜は、セシウムの移行がはるかに少ないことが報告されています。土壌の違いが影響した可能性が指摘されています。
 例えば、チェルノブイリでは、ジャガイモはかなり汚染していますが、去年福島で取れたジャガイモはほとんど汚染していません。また、汚染しやすいと考えられたダイコンやニンジンもほとんど汚染がありませんでした。
河田さんは、これから福島においても、土壌の性質とともに、どういう野菜が汚染しやすいか、しにくいかデータを集めていくことが重要だと指摘します。それは、生産者の営農にとっても、消費者の選択にとっても有効な指標になると、河田さんは言います。

ウクライナ・ジトミール州 ナタネで放射性物質を除去する

 ウクライナでは、チェルノブイリ原発事故から26年が経った今でも放射能汚染が続き、広大な農地がうち捨てられたままです。この荒れた土地を蘇らせようと、河田さんたちが取り組みを始めたのは5年前。ナタネを植えて、放射能を除去する計画を始めました。セシウムを多く吸収するナタネの性質を生かし、土の中に残ったセシウムを取り除こうと考えたのです。そして、収穫したナタネを搾り、とれた油からバイオディーゼル燃料を作るプロジェクトも進めています。。
 河田さんは、ウクライナで実験を重ねてきましたが、ナタネのセシウムを除去する効果は期待したほどではなかったと言います。ナタネの汚染は、1キログラム当たり500から700ベクレル。土壌中濃度にして1年間に減るのは2〜3%で、土壌からセシウムを取り除くには30、40年はかかることが分かりました。ただ、この実験から新しい事実をつかんだとも言います。
ナタネは、連作障害がありますから続けて植えられない。それで、必ず裏作を植えます。裏作も分析しているのですが、実は、裏作は非常に汚染が少ない。」
 裏作の大麦の汚染は、1キログラム当たり23.4ベクレル、小麦は7.4ベクレルと低い値でした。そこで河田さんは、ナタネを収穫した後に、大麦や小麦を植えれば、今まで耕作を諦めていた汚染された農地も活用できる可能性が出てきたと考えています。
 このようなチェルノブイリ被災地の例が、福島に応用が利くかどうかは、実験してみないとわかりません。また、セシウムは水溶性で油には溶けないので、ウクライナのバイオ燃料のように、福島では食用油を生産することも考えられます。実際、南相馬市では、ヒマワリやナタネで作った油を商品化しようという試みが始まっています。

消費者の不安に応える「収穫祭」

 去年10月、伊藤俊彦さんたちの農場に大勢の親子連れがやってきました。首都圏の消費者とともに開いている毎年恒例の「収穫祭」です。今回の参加者はおよそ50人、例年を大きく上回りました。伊藤さんは、消費者に対して、コメの放射能汚染を防ぐために自分たちがどのような対策をしてきたか。そして現実にどれだけの効果があったのか、丁寧に説明しました。消費者の中には、原発事故の後、福島産というだけで、伊藤さんたちのコメから離れていった人も少なくありません。伊藤さんは、消費者の不安に応えるには、顔の見える関係の中で、科学的なデータを示していくしかないと考えています。
 「我々も、自分の子どもとか孫たちに食べさせるという立場にたてば、(都会の消費者と)同じなのですよね。自分が作っているものを全部売って、自分たちはどこか汚染されてないところから買うなんていうことじゃなくて、自分たちが作ったものをしっかり自分たち家族で自信もって食べている、という情報発信が重要です。」「もうね、福島の人たちかわいそうだから買ってくださいっていう、その時期は過ぎましたよ。やっぱりちゃんと科学的根拠に基づいて自分たちはここまでのものを作れるようになりましたと。・・・私の考えとしては、自分が、まず家族で食べられるものを作るという目標があって、そのプロセスをちゃんと情報発信をしていくということが第一歩なんじゃないでしょうかね」

 続いて、河田さんから、消費者に安心してもらえるための重要な提言がいくつも示されました。

○消費者と生産者が壁を越える
「とにかく、何とかして早く生産者と消費者の壁を越えなければいけないと思うのですよ。そのためには、あくまでもやっぱりお互いに学んで、ちゃんとした情報を手に入れてそれで判断するということが基本だと思うのですね。やっぱり行政だけに頼っていては、それはできない。今日会場に集まったのは、有機農家の方ですけれども、これまでやってこられたように、生産者と消費者の関係をちゃんとつなぎながら、"私はこういう努力をしています。その結果、こうなりました"ということを相手に伝えることが、消費者に安心いただくことになるのではないかと思うのですね」

○予防的な汚染レベル調査を行う
「まずは正確な汚染レベルの調査でしょうね。これがないと、結果的に、収穫した物を測って、基準を超えましたから出荷しないようにということになってしまうので、これは、農家の方にとって非常に辛い結果になると思うんです。だから、予防原則と言うんですけれど、事前に、ここは作っても大丈夫とか、ここで作ると危ないんじゃないかとか、そういう情報をちゃんと作って、科学的に秩序立てて農業をやればいいんじゃないかというふうに思います」

○検査の数字をきちんと出す
 会場の農家からも意見が出ました。「放射線の検査のためのきちっとした態勢をつくる。消費者の人たちにも、ただ単に安全ですよというふうな説明じゃなくて、やはりND(検出限界以下の参考値)であっても、ある程度はきちっとした数字を出す。そのような形で、直接的に消費者の人たちとかかわりを持つようなシステムを、身近なものとして作っていく努力もしていかなくちゃならないと思いますね」

○汚染のメカニズムの知恵を国民が共有する
「どういうメカニズムで汚染されてきているのかということも科学的にわかりつつある。そのへんを国民が共有するということが大事だと思うのですね。いわゆる汚染された土壌でも、ヒマワリやナタネのようにちゃんと食用になるものができる。それは河田先生に教わったことでもあるし、私は神様からのプレゼントだろうと思うのですよね。そういうものを広げながら、日本の困難を解決して、それを世界に発信していく。そういう意味ではまたとない、ある意味では、大事な局面になっているのではないかと思います」

○市民全体で何回も情報交換を繰り返す
「市民全体で集まって、こういうことを何回も繰り返しやらないと"風評"はなくならない。そのようなことをみんなで考えてみたいと思います」

まとめ 「無知の知」

河田さんは、チャルノブイリ、そして福島と放射能汚染との格闘を続けています。その河田さんが、最後に放射能に立ち向かう時に、最も大切な考え方を伝えました。
「今日、こうして長い時間お話をして、いままでなかったような感触というか、発見がありました。これでやっと、チェルノブイリから先にいけるのかなという気になりました。 最後になりますけれども、今まで、先ほどの"風評被害"も含めて、何となく根拠をハッキリさせないまま安全だとか、あるいは危険だとか、そういうことをお互いにやってきた結果、こういう事態になっていると思うのですね。
そこでやはり提案したいのは、ここまでわかっている。しかし、ここはわからない、ここは本当に不安なところなのだということをはっきりさせる。そしてそれを共有する。"無知の知 UNKNOWN KNOWNS"というのですけれども、自分が何を知っていて、何を知らないのかということを知るということですね。哲学的な考え方です。
今日のような話し合いを続けると、あっ、ここはまだちょっと弱いのだなとか、ここはもう大丈夫だなとか、そういうことがかなり見えてきたような気がします。そのことで、初めて何をしたらいいのかということがわかってくる。そういうことをこれからも是非続けていきたいと思います。本当に今日はご苦労さまでした。ありがとうございました」

 「食の安全・安心」を追い求めてきた農家が、長い時間をかけて作り上げてきた農地。 ここに再び収穫の喜びが帰ってくるのは、いつになるのか。

農業再生への長い道のりは、今始まったばかりです。

福島・南相馬市

人口6万6205人(平成24年2月1日現在)
原発事故による市外避難者:2万1742人(平成24年3月11日現在)

河田昌東さんプロフィール

河田昌東(かわた・まさはる)分子生物学者

1945年旧満州(現・中国東北部)生まれ。山形大学人文学部卒業。宮城教育大学、東北大学大学院非常勤講師。

名古屋大学で分子生物学を学ぶ。1990年からチェルノブイリ原発事故の汚染地域、ウクライナ・ナロージチ地区に入り医療救援活動などに取り組む。近年は、放射能汚染のために利用されていないウクライナの広大な農地の再生に取り組み、ナタネを植えて、バイオディーゼル燃料を作るプロジェクトを進めている。去年の福島での原発事故後は、福島県須賀川市の農業生産法人で稲への放射性物質の移行を減らす取り組みに助言をしてきたほか、各地で農家へのアドバイスを行ってきた。