放送内容

鴻上尚史と高校生と被災地のリアルと

2019年1月19日(土)

今回の未来塾は、作家・演出家の鴻上尚史さんを講師に迎えた特別編! 塾生は岩手県立大船渡高校演劇部の生徒8人です。顧問の多田知恵子先生の脚本『椿(つばき)と海』を鴻上さんの指導でブラッシュアップし、大槌町の「公開復興サポート」での上演を目指します。『椿と海』は東日本大震災で被災した高校生たちの葛藤を描いた物語。塾生たちは鴻上さんが求める「リアルな演技」を考えるうちに、演劇の登場人物と自分たちの被災体験のギャップに悩み始めます。果たしてどんな舞台が出来上がったのか!?

講師

講師

鴻上尚史さん

作家・演出家

プロフィール

鴻上さんと塾生たちの初顔合わせの場は、都内のスタジオでした。今回の塾生は1年生が主体。8人のうち5人は、これまでお客さんの前で演じたことがありません。みんな緊張でカチコチになりながら鴻上さんの到着を待ちます。そこに登場した鴻上さんは、「きつく叱ったりはしないから気楽にやって」と、リラックスムード。まずは塾生たちの芝居を通しでみることにしました。鴻上さんの眼に塾生たちの演技はどのように映ったのでしょうか?

約1時間の劇を演じ終えた塾生たちに対して、「気楽に」というリラックスムードはどこへやら、鴻上さんは矢つぎ早にダメ出ししていきます。特に、主人公・椿(はるき)が冒頭の海を見つめるシーンでは、演技が「リアルじゃない」と一刀両断です。どうやら演出家のプロとしてのスイッチが入ったようです。鴻上さんは、リアルな演技をするためには「自分の演じる役柄の細かな人物設定を考える」という課題を出しました。

熱のこもった演技指導が一段落したところで、鴻上さんは塾生たちを集め、震災をテーマにした演劇をやることをどう考えているか問いかけます。震災で親戚をなくした塾生や目の前で津波に飲み込まれた人を見た塾生がいました。それでも、演劇を通して「今の自分たちのことを知ってほしい」「自分の中に残したい」といいます。鴻上さんは、演劇の役割について語ります。「演劇で頑張っても被災した人々を慰められないんだけど、演劇をすることで“震災”が自分の大切な記憶になる」。3時間以上にわたって塾生たちに熱く語りかけた初回の講義でした。

初回講義を終えて大船渡に戻ってきた塾生たちは、鴻上さんからの課題に取り組みます。ところが、主人公を演じる新沼温斗(にいぬま・はると)さんは悩み始めていました。新沼さんの家も被災しましたが家族は無事でした。そんな自分が震災で両親を亡くした主人公を演じられるのか、演じていいのか。鴻上さんがいう「演じる役柄の細かい設定」を考えれば考えるほど悩みが深まります。

初回講義から3週間後。鴻上さんが大船渡高校を訪れました。塾生たちは練習の成果を披露します。劇を見終わった鴻上さんは新沼さんの浮かない表情に気付きました。悩みを打ち明けた温斗さんに、鴻上さんは「たとえ自分が体験していなくとも想像力を使って突き詰めることはできる。震災が風化していく中どう伝えていくかという技術が大事だ」と、役柄を演じ切るよう指導します。

リアルを求める鴻上さんの指導が続きます。「ウソをすると舞台全体が腐り始める」「演技はアピールすることではなく、心の旅を見せること」「俳優が感じてないと観客も何も感じない」。鴻上さんの指導を受けながら、塾生たちは演技を練り上げていきます。

いよいよ本番の舞台。場所は「公開復興サポート」の会場である岩手県の大槌学園です。鴻上さんの指導を受けて、塾生それぞれが悩みながら練習を重ねてきた成果を、観客の前で披露します。上演は大成功。お客さんからは「他人の気持ちは本当にはわからないというところが響いた」などの声が寄せられました。

鴻上尚史さんのまとめ

自分が体験はしていないけれど、もし体験していたらどうなるだろうかと想像する力が私たちにはあります。その想像力の結果によっては、突っ込みを入れられるときもあれば、逆に「よく分かってくれましたね」「私たち以上に経験、体験を表してくれていますね」って言われるときもあります。
日本人はつい“気持ちさえあれば伝わる”とか、“気持ちが1つになれば”とか、“絆”とか言いがちですが、気持ちは技術がないと伝わらないんです。心の中でずっと思っているだけじゃ実は伝わらないんですよ。震災から7年たって、どんどん記憶がなくなっていったりしているので、震災の教訓をどう伝えるかっていう技術を磨くことが大切だと考えます。

ゴールデンルール

思っているだけじゃ 伝わらない
想像力を使い 伝える技術を磨け

ナレーション 吉本実憂のつぶやき

塾生たちの演劇、上手でした。彼らのがんばっている姿が心に残りました。今回、鴻上さんに演出をつけてもらったことで、すごく成長したんじゃないかなと思います。特にヒロイン美海役の菊池こころさんが印象的でした。幼なじみのハルキが海を見つめているバルコニーで声をかけるのが何回目なのかとか、それを考えることで演技が変わっていったと思います。
塾生たちが鴻上さんから言われて取り組んでいた、「演じる人物のバックグラウンドを作る」ということは、私も役作りをするときはいつも心がけています。でもそのことをうまく言葉で表現できなかったのですが、今回鴻上さんから「与えられた状況」って言葉が出てきた瞬間に、「この言葉だ!」って思いました。今後使わせていただきます。(笑)
鴻上さんの言葉は「心の旅」とかオシャレですよね。オシャレでわかりやすい言葉がたくさんありました。私もすごく勉強になりましたし、もっとがんばろうって思いました。

番組応援団長 サンドウィッチマン 今回の一言

【伊達】「非常に大変な課題でしたけれどもね、塾生たちは演劇の力を感じ取ったような気がしますね。」
【富澤】「そうだね。演劇を見てくれた地元の人たちにも、そのチカラは感じてもらえたんじゃないかな。」
【伊達】「そうですね。鴻上さんのね、「思っているだけじゃ伝わらない」っていう言葉が非常に印象的でしたね。
【富澤】「うん。お前も、俺に対する感謝の気持ちを、日ごろからカタチにしないとだめだよ。」
【富澤】「毎日お金あげてるじゃないですか。」
【伊達】「あ、そっか。じゃあいいや。」
※(番組プロデューサー注)サンドウィッチマンにお金のやりとりはありません。あくまでギャグです。念のため。

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