あしたブログ | 明日へ つなげよう

2018年10月18日 (木)

【武田真一アナ・インタビュー②】「いのちを守る」ためには

←前回のインタビュー


2011年3月11日。
東日本大震災が発生した際、ニュースを担当していた武田真一アナウンサー。

2万人近い犠牲者が出た災害を前に、「言葉や放送で何ができるのか」と無力感を感じますが、被災地を訪ねたことで、自分にできることは「次の災害の時に命が救えるような放送を出す」ことだと考えるようになります。そして災害時の報道の見直しに関わること…

全3回のインタビューの今回は2回目。

NHKの災害報道はいったいどう変わったのか。
また武田アナは、どのような思いで災害報道の見直しを進めてきたのでしょう。



◇◇◇



NHKで災害報道の見直しを始めた頃、気象庁にも津波の大きさの表現を改訂する動きがありました。巨大地震が起きた際、最大級の津波を想定し、予想の高さを「巨大」「高い」という表現で発表することで、事態の深刻さを伝えるようになりました。

我々もそれにあわせて、NHKの災害、地震・津波報道のフォーマットを作ることにしました。

takedasan02talking.jpg


震災以前、NHKで我々がやってきたのは、冷静に、きちっと事実を伝えるということでした。もちろん論理的に分かってもらうことは大切です。あの時も、当時のマニュアルをきちんと実行できてはいたのですが、やはりいろいろ足りないところがあって。

その一つに、「危機感みたいなものを伝える」ということがありました。



花: 危機感みたいなもの、
ですか?

「いざ」という時に、避難のスイッチを入れるために、場合によっては感情に訴えて、「怖い」と感じてもらう必要もあると考えたんです。

そこで強い口調を使ったり、過去の事例を盛り込んだりして、呼びかけることにしたのです。

「今すぐ逃げること」
「命を守るため」
「一刻も早く逃げて」
「東日本大震災を思い出してください」

「とにかく逃げてください!」ということを、叫びながらでもいいから言うようにしたのです。

 

takedashout.jpg特別展「東日本大震災を伝え続けるために」での展示



花: 確かに普段は落ち着いているアナウンサーが叫んだりしたら、慌てますね。…でも、「逃げてください」って感情にまかせて言ったら、次のレポートとか続けられなくなったりしませんか?

難しいことですが、そこは技術なんです。

例えばスポーツ中継だと、ワァーッと興奮した描写をしたかと思うと、サッと冷静になったりするじゃないですか。そういうテクニックが必要となってきます。自分が感情的になってはだめなんです。エモーショナルに直接視聴者の方に呼びかけるところもあれば、淡々と状況を客観的に伝えるところもある。

それを使い分けることができるようにする。そして、それをできるのはアナウンサーしかいない、そういう気持ちでいます。365日24時間、いつ何が起きるかわからないので、そのためにいつも我々はスタンバイしています。


花: そういった技術の習得は、どのようにするものなんですか?

さまざまな専門家の知見を聞き、ディスカッションを何度も重ねて、それをマニュアルに落とし込んで…その間にも、気象庁も変更を加えて…また検討をやり直してと…いろいろあって5年をかけて災害報道の改善を行いました。それらを用いて、日々訓練をしています。東京に新しく転勤してきたアナウンサーたちは3月か4月に集中的に訓練を、そして折に触れて研修を行っています。そして、「実践」を積んでいきます。

西日本豪雨や北海道地震など、災害に関する放送は長時間続きます。それを、1時間1時間、次はこうやった方がいいんじゃないか、を考えて対応して…。そういうことを積み重ねて、ちょっとずつ、ちょっとずつバージョンアップしようと努めています。

東京でそういう訓練を積んだアナウンサーが、また地方へ転勤して行って、そこでその知見を広めていきます。また、被災地など現場で学んだ人たちが東京の僕らにフィードバックしてくれます。いろんなアナウンサーから意見を募って、避難所への呼びかけなども常に改善を続けています。



花: 呼びかけとは?

僕たちがやらなくてはならないことに、まず「今すぐ、津波から避難して」とか「地震の揺れから身を守って」など直接的に“命を守る”呼びかけがあります。その際、「そばにいる方と声をかけあってください」とか、「身を寄せ合って暖をとってください」「必ず助けは来ます」など、そういった寄り添い、励ますことも大事なのではないかと考えています。

またそれだけではなく、その次のステージでは、直接の災害で命が救われた人が、たとえば避難所などで亡くなってしまうなんてことがないよう、助かった人がどうやって“命をつなぐか”ということも考えています。



花: 地震、津波、豪雨、台風…いろいろな災害がありますが、マニュアルの言葉で対応できるんですか。

西日本豪雨では200人を超える方が亡くなりました。大雨に対する呼びかけに関して、僕らは何回も何回も見直ししてきているんです…にも関わらず、これだけ大きな被害が出てしまったということに関して、すごく残念な思いです。無力さを感じます。

おそらく、「災害」というものは、同じようなものは2度と起こらないと思います。そのたびごとに顔が違うというか…

東日本大震災の後に作ったマニュアルの冒頭にも書いたのですが、「大事なのはマニュアルを超えた放送だ」ということ。1回作ったマニュアルが、それから先いつも役に立つわけではない。マニュアルが最低限。「今まで考えて作ってきたことは通用しない」ということを考えていなければならないと思います。


目標を達成するための道のりを考えるときに、「ルールベース」と「プリンシプルベース」というふたつの方法論があります。「ルールベース」は、まずルールありき。ルールを守って手順を守っていけば、ある種の結果が得られる。そういう仕事のやり方もあります。

「プリンシプルベース」は、一番大事なことを原則とします。そしてそれに向かって進む。災害報道だと「命を守ること」です。それを得るためには、ルールや手順を守っていれば確実、というわけではない。「命を守る」という難しいミッションを達成するには、ルールに縛られずに、そのときに最善だと考えられる放送を出していく必要がある。それが「プリンシプルベース」です。

しかし、手順もルールもまったくの「まっさら」だと何もできないから、一応マニュアルは作ります。それをベースにしつつ、その都度その都度、起きていることに応じて、何をどう伝えるのかを考えていく、そういう姿勢で臨んでいます。



花: アナウンサーという言葉で行動を促す側として、逆にその言葉を受け取った人たちに「こうしてほしい」といったことはありますか?災害が起きたその時、どうアクションをしてほしいとか。

「その時」というより、普段の備えをお願いしたいです。

僕らの放送というのは、皆さんが身を守る行動を起こすための「トリガー(引き金)」に過ぎないと思います。だから、視聴者の皆様には何か起きたときに自分はどうすればいいのか、ある程度の準備をしていただきたいんです。

津波がきたら、あの丘に逃げようとか、
地震があったら、あの避難所に逃げようとか、
気象庁のホームページを見て、あらかじめ水害や崖崩れの危険度を確認するとか、
家族がバラバラだったら、どういうふうに行動しようとか…

いろんなことを想定して、とにかく準備をしておいてほしいと思います。

それで僕らは、今が「その時」となったら命を懸けて、声を枯らして呼びかけます。普段は冷静沈着なアナウンサーのそういう呼びかけを聞いたら、「その時」だと思ってください。どうか普段の備えを行動に移してください。

◇◇◇


防災への意識と備えを普段から。
私たち、東日本大震災プロジェクト事務局も強くお願いしたいことです。

さて、次回は最終回。
今年6月に、宮城県名取市を訪れた武田アナ。その時の思いをうかがいました。



次の記事
【武田真一アナ・インタビュー③】”あの日”伝えた閖上へ

NHKでは、震災による被害の現状や被災した人々の声、復興の様子を継続的に記録し、その経験や教訓をもとに、防災・減災につながる情報を発信しています。

災害が相次ぐ中、いざという時のための知識や備えは、誰にとっても重要です。以下のコンテンツをぜひ一度ご覧ください!

【NHKニュース・防災アプリ】災害情報や最新ニュースをいち早くお届け!
【防災クリップ】1分間で、防災・減災の知識をUP!
【そなえる防災】疑問・質問に専門家が答えるQ&Aなど。
【災害時障害者のためのサイト】障害者や高齢者など誰も取り残されることのないよう。
【つくってまもろう】身の回りにあるもので便利なアイテムを手作り!
【リコの非常食クッキング】非常時でも、できるだけおいしい食事を。

そして我らが「明日へ つなげよう」のホームページはこちらEnglish Versionもありますよ~♪