特集 special

柔らかな力を描く。脚本・大森美香さん インタビュー

あさが来た

 原案があるドラマって、正直、その題材にほれ込んでいないと書けないところがあります。その点、今回のモデル・広岡浅子さんを描いた『小説 土佐堀川』は、本当におもしろかったですね。特に、炭坑の現場へひとりで乗り込み、男たちを前にたんかを切るくだりは、現代では考えられないような緊迫感があってぜひ描きたいと思いました。今回のドラマそのものはフィクションとして作らせてもらいますが、彼女の生き方の本質を伝える意味では責任もあるし、大きなやりがいを感じながら執筆をしているところです。
 ヒロイン・あさは、どんなことにも疑問を持って、障害があろうとも前へ前へと進みます。そんなキャラクター像を膨らませていたときに、発明王のトーマス・エジソンをふと思い出したんですね。幼少期からずっと「なぜ?」を繰り返したエジソンは、一般の小学校ではうまく受け入れられなかったものの、母親だけはずっと彼の探求心に寄り添って学びを支えたと言います。そういう理解者がいないと、すばらしい才能もつぶされてしまうのかもしれないーー。
ふとそんなことを思いました。
 破天荒なあさは、もしかするとはみ出し者になったかもしれないけれど、愛情を持ってしっかり見守った家族がいて、彼女の生き方を認めてくれた夫がそばにいた。彼女はただパワフルで強いスーパーガールじゃなく、さまざまな人との関わりの中で生き、私たちと同じようなことで悩んだり、怒ったり、喜んだりするひとりの女性なんです。

ヒロインに、エジソンを思う。

あさが来た

現代にふさわしい夫婦のカタチ。

あさが来た
あさが来た

 原案本を読んだとき、こんなカッコいい生き方をした女性がいたのかという驚きとともに、2歳の頃から許婚(いいなずけ)だったという夫の存在がすごく気になりました。あんなに行動力のある浅子さんとうまくやっていた旦那さんだから、相当に器の大きな男性だったんじゃないかと思ったんです。そこからいろんな資料を読んで、本当に仲がいい夫婦だったんだと感じました。ふたりは一体どんな瞬間にほれ合って、どうして仲良くやっていけたのか。その関係性を膨らませるのに苦労しましたが、描いていて一番楽しくもありますね
 あさの夫・新次郎は、仕事はしないけれど、粋があって包容力があり、彼なりの方法であさを支えていきます。新次郎がいるからこそ、あさは自分の能力を伸ばすことができるんです。そんな大きな存在ですが、なかなか生身の人間としてイメージするのは難しかったですね。実はまだキャスティングも決まっていないとき、私の勝手な空想として、もし新次郎が玉木宏さんだったら…って考えてみたんです。かつてご一緒した『桜ほうさら』のキャラクターとはまったく違うけれど、玉木さんなら、魅力的に演じてくださるような気がしました。そこから、新次郎のキャラクターがすいすいと動き出したように思います
 昨今は女性の自由な生き方を推進する時代ではあるけれど、実際にはまだまだ難しいところがあると思っています。でも、この夫婦の関係では、ちゃんとそれが成り立っている。実は現代らしい夫婦関係というか、“新しい理想の夫婦像”に近いんじゃないかと思うんです。

幸せの定義とは、一体、何なのか?

あさが来た
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 あさのように、強くたくましい生き方って誰もができるわけじゃないと思うんです。いろいろな女性の生き方があるというメッセージも込めて、このドラマには、立場も信念もさまざまな女性キャラクターが登場します。
 なかでも、あさと対極にあるのが姉・はつの存在でしょうか。はつはあさのように「なんでどす?」とは言わずに、「私は決められた道を行く」と迷わず言える女性。あさはどんどん前へ出るので強さが印象的ですが、実はもろいところもあるんです。逆にはつは、周囲に流されているように見えて、どんな場所でもしっかり根を生やすことができる強さがあります。
 ふたりの人生はまったく真逆に進みますが、どちらが幸か不幸か、ということではありません。「幸せ」って、きっと決まった形はないと思うんですね。たとえお金持ちであっても、本人がそう思わないこともある。つまり、自分の心の持ちようと、今いる場所がどれほど自分に合っているかなんですよね。
 ちなみに、はつの夫・惣兵衛は、描いていてすごく筆が乗るキャラクターのひとりです。周囲にいい人が多い中、惣兵衛は何を言い出すかも分からないし、その人生はとにかく波乱に満ちています。はつらつとしたヒロイン・あさとは対照的に、いろんな感情を抱えて生きている“”の存在。でも、一番変化のあるキャラクターでもあって、惣兵衛のエピソードを書くことはすごくワクワクするんです。彼の人間らしさが魅力的に見えればいいなと思っています。

「この世界をよくするには、女性の柔らかな力が必要なのです」

 広岡浅子さんが残した言葉の中に、「みんなが笑って暮らせる世の中をつくるためには、女性の柔らかな力が大切なのです」という言葉があります。これは、第一次世界大戦がヨーロッパで始まった頃、だんだん近づいてくる戦争の足音を感じながら、浅子さんが若い女性たちに伝えた言葉です。
 執筆のための題材を探していたときにこのエピソードを知って、まさに今の時代にぴったりの言葉なんじゃないかという思いがしました。社会で女性が働くことって、今でもやはり難しいことがあると思います。でも、男性に負けないように立ち向かっていくというよりは、女性のしなやかさ、柔らかさを活かして能力を発揮することで、何か新しいものが生まれることもあるんじゃないかーー。そんなことを、ドラマを見てくださる女性の方と一緒に、私も思いたいですね。
あさが来た

 そして、あさや新次郎、はつや惣兵衛、これら夫婦を取り巻く親世代の心もしっかり描きたい。この時代に家を背負うこと、子どもを思うこと、親への思い……。幕末からを描くこのドラマの人物たちは、現代人とは違うかせを背負ってはいるものの、家族像や夫婦像は今とつながっているのではないでしょうか。そこを表現する楽しさと難しさを日々感じながら、最後まで濃縮したものをお届けしたいと思います。