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サッカー日本代表 森保一監督がメンバー選考で重視したこと

2022年11月18日(金)

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最後まで悩み抜いたというサッカー日本代表のメンバー選考。森保監督が決断するにあたって重視したことを話してくれました。対談の相手は、宇宙飛行士の野口聡一さん。宇宙にまで日本代表のユニフォームを持っていくほどの大のサッカーファンです。対談シリーズ2回目の今回のテーマは、「夢と目標の向き合い方」です。

前編「サッカー日本代表 森保一監督が語るチームビルディング」はこちら

若手の野心にかける

森保一監督が就任してから4年間の集大成として選んだ今回の大会メンバーは26人。FIFA ワールドカップに初めて挑む選手は、そのうち19人にのぼります。

森保一監督

メンバーを選ぶにあたって、コーチ10人で、ああなったらこうなる、こうなったらああなる、誰がいたら、誰と誰が変わったらどういうチームワークになる…みたいな、本当にいろんなシチュエーションを延々と続けました。

野口聡一さん

難しい問題にはしっかりと正面から向き合いながら、でも時が来たら、ここで決めなきゃっていうのはすごいなと思いました。

対談する野口聡一さん(左)と森保一監督(右)

最後まで悩み抜いたという代表メンバーの選考。森保監督は、決断するにあたってあることを重視しました。

森保一監督

経験者の経験は非常に大切ですけど、経験がない選手たちの「ワールドカップで成功したい」という“野心”を持って戦ってくれるエネルギーを期待して、メンバー選考に至りました。

野口聡一さん

森保さんは割とかっちり選ばれる感じなのかなと思っていたので、意外でした。あえて野心という言葉を使うのは、「チャレンジャー」ということなのかなと。そのあたりを思っていますが、言葉に込めた思いはあるんですか。

森保一監督

経験豊富なベテランの選手が、チームをいままで引っ張って、チーム作りにすごく貢献してきてくれたっていうことは間違いなく評価しなければいけないですし、その頑張りに感謝感謝の気持ちしかありません。

ですが、ワールドカップの舞台でもできるという計算はある程度たつ、経験のある選手たちと芽が伸びてきている若い選手と、どう比較していったらいいのか。追いついてきてるな、同等になってきてるなって考えたときに、野心を持ってハングリーに、もっと自分は成功したい、ワールドカップの舞台で成功して、自分の価値を高めたいと思っているほうを評価してあげることも大切かなっていうふうに思いました。

野口聡一さん

野心ってなかなか数値化しにくいじゃないですか。おそらくコーチングスタッフのみなさんも。技量に関して、誰がフリーキックが上手かとか、誰がスタミナあるかっていうのはある程度数字に出せそうですけど。

意気込みとか色んな言い方もあると思うんですけど、監督はわざわざ野心っていう言葉を使っています。そういう意味で、野心といえばこの選手だなっていう人はいらっしゃいますか?

森保一監督

野心といえばですか。全員持っているかなというふうにも思いますけど、誰かと言われると、久保建英と堂安律って出てきますね。

野口聡一さん

なるほどね。

久保建英(左)と堂安律(右)(2021年8月)
森保一監督

日本代表の選手たちはみんな、成功したい、もっとすごい自分になりたいみたいなものを全員持っていますね。向上心の塊みたいな感じの選手ばっかりです。逆に、そうでないと日本代表選手にはなれないのかなって。野球でいうと、エースで4番みたいな。俺が一番。俺が王様。

野口聡一さん

「俺が決めてやる」とみんな思っていると。特にフォワードの選手は。

森保一監督

はい、そういう選手も多いです。性格的に「俺が俺が」ではない選手でも、もっとうまくなりたい、もっと強くなりたい、もっと勝ちたい、もっと高いレベルでやりたいっていうことはすごく感じますね。

歴史を継承してカタールへ

2018年ロシア大会で決勝トーナメント1回戦 ベルギー戦に臨む日本代表選手たち
森保一監督

過去の歴史から学んでいることをいかさないといけないと思っています。日本がワールドカップに出続けて、今回7回目の出場になりますけど、その中で3回ベスト16にいっています。

1回目は2002年日韓大会のフィリップ・トルシエ監督のとき。日本の組織力って世界に通用するよねっていうことがわかりました。

次は2010年南アフリカ大会の岡田武史監督のとき。あの時はベスト8をかけたパラグアイ戦でPK負けで終わっているので、ベスト8に行っていると言っても過言ではないと思います。岡田さんがやられたことはやはり守備です。世界で勝つために、それまで日本がやられていたサイドの守備をどうやって構築するか、幅をどう守るかということをしっかり整えて、結果を出されました。

2018年ロシア大会では西野朗監督が、またここから日本のサッカーの成長はある、もっと攻撃も守備もアクションを起こしていけると、選手に勇気をもたせて戦う気持ちにさせたことが結果につながったと思います。

いろいろな外国人監督もいました。ザッケローニ監督であれば“インテンシティ”(プレーの強度)ということをすごく言われてチーム作りをされていました。ハリルホジッチさんは最後本大会では監督はされなかったですけど、“デュエル”(1対1でのボールの奪い合い)という、局面で勝つ責任を持って勝っていくっていうことの大切さを、改めてグローバルスタンダードの中で教えてくれたと思います。そういうところをいかしながら、今回の大会は戦いたいなと思います。

2018年ロシア大会での森保一コーチ(当時:左)と西野朗監督(当時:右)

歴代監督が作り上げてきた、日本代表のサッカー。その中で森保一監督は何を出していくのでしょうか。

森保一監督

いい守備からいい攻撃にというコンセプトでやっています。ドイツ・コスタリカ・スペインと、強豪とばかり戦いますけど、相手のことはリスペクトしつつも、同じ目線で戦っていくということをまずは忘れてはいけない。その中で、選手の個々の力はいますごく強く大きくなっているので、その選手の個々の力を、日本の良さである輪の力、組織力として発揮していけるようにしたいなと思いますね。

夢や目標との向き合い方

野口聡一さんは2019年12月に、2回目の宇宙飛行に臨みました。日本人として初めて、船長補佐としてロシアの宇宙船 ソユーズに登場し、1回目の宇宙滞在13日を上回る163日の長期滞在を果たしました。しかし、地球に帰還後は達成感の大きさから次の目標が見いだせなくなったといいます。

野口聡一さん

目標達成ができたら、それを上回る幸福感はないです。ただ、目標を達成してもそのあと人生は続くわけで。そのあと、いかに日常生活に戻っていけるかという悩み、私たち宇宙飛行士は実は似たように抱えています。子どもの頃から宇宙は夢の舞台っていうのでやっていて、宇宙に行くっていうことを目標にしてそれに全身全霊を賭け、その目標を成し遂げて地球に帰ってきた時に、じゃあその次どうするんだと。日常生活において、また新しい目標をつくっていけるのか。それは、なかなか簡単ではなくて。

宇宙飛行士やアスリートだけでないと思うんです。普通に真面目に働いてきた会社員でも、ある年齢で急に「はい、あすから来なくていいです」と言われて、定年後の寂しさとか、いままで何のために私は働いてたんだろうみたいなものを感じると思います。普通の人でも感じる寂寥感(せきりょうかん)というのとつながると思っているんですけど、なんで我々は目標を失った時にこんなに苦しいんだろうと。あるいは生きづらいんだろうと。

森保監督はドーハの悲劇を体験されましたよね。

日本が、初めてのワールドカップ出場を目指していた1993年に今大会の開催地のカタール・ドーハで行われたアジア最終予選のイラク戦。日本が勝てばワールドカップ初出場が決まる大一番に、当時25歳の森保一さんは選手としてピッチに立っていました。 1点リードで迎えた試合終了間際にゴールを決められ、一瞬にして日本サッカーの悲願が打ち砕かれ、夢が絶たれた「ドーハの悲劇」。このとき失意を乗り越えたことが、いまの森保一監督の強さにつながっています。

森保一監督

カタールは選手時代、そこで本当に悔しいというより、悲しい思いをした所です。サッカーをするうえでは、これ以上悲しい思いをすることがないなっていうふうに、自分を強くしてくれた場所だと思ってます。今大会は同じカタールで開かれますが、リベンジという気持ちはあまりないですね。でも、その時の自分を超えたいとか、またさらに成長している自分がその場に立っていたいというところはありますね。1993年の立場は選手でしたけど、今回監督として行かせてもらいます。あの時の自分より強くなっているとか、そういう自分と思えるように、その場に立ちたいなとは思いますね。

目標があっていまの自分があるっていうのはもちろんありますけど、目標ありきの自分はいないと思っていて。もし私が今回のワールドカップで最高の成績をおさめても、その先の目標は何だって迷うことはないかなって。好きなことをもう1回続けていこうってなると思います。

いまの自分にできることをやっていって、いまよりも自分が上手くなったとか強くなったとか、なんか成長していると自分の中で感じられるかどうかかなと、自分に目が向いているというところが私はあります。何よりも自分を認めてあげるというか。いまの自分を受け入れて、そこから何をしようかっていうところかなと思います。

私自身、自分に甘いです。失敗することもいっぱいあるけど、もう一人の自分で「それもお前だよな」みたいに語りかけて、じゃあそこからまた違うスタートをしよう、前進していこうみたいなことを思っています。

野口聡一さん

いまお話を聞いていて、やっぱり自己肯定感を大事にしようっていうのが素晴らしいなと思いました。いま目の前の点数を入れなくても自分の価値っていうのは変わらないというか。持っているものはすでに自分の中にあるわけで、これで負けたら全ておしまいだということは決してないし。

スポーツ選手の場合はやっぱり、オールインしてしまった上で、勝たない自分に価値はないっていうふうにいくことが割と多いですよね。そういう意味では監督がおっしゃられた、やはりちょっと一歩引いて、夢は大事だけど夢だけじゃないというか。あとはやっぱり自己肯定感みたいなのを大切にしていこうっていうのは、いろんなことに共通するなと思いますね。

森保一監督

目標があったとしても、夢があったとしてもなかったとしても、いま自分がやっていることを大切にすることであったり、いまベストに尽くすことであったり。いまを楽しむみたいなところを持っていると、何にでもつながっていくかなという感じはしますね。

いよいよ開幕するFIFA ワールドカップカタール 2022

初戦のドイツ戦が開催される、カタール首都ドーハのハリファ国際スタジアム
野口聡一さん

ワールドカップはやっぱり本当にすごいなと思うのは、いろんな試合が同じ日に同時にいろいろやっているところですよ。特に決勝は、世界でその日唯一、あのボールだけが動いているわけですよね。全ての目がまさにキックオフの瞬間、ピッチに立っている22人に目が行き、あの1個のボールに全てのサッカーファンの気持ちが集約するっていう、あの瞬間はやっぱすごいなと。

前回大会のときは訓練でたまたまロシアにいたので、モスクワで決勝トーナメントの試合を観戦しました。平和でないとできないことだなと思います。残念なことに、いまのロシアの状況を考えるとそういう状況にないです。中東でもいろいろ問題ある中で、少なくともいまのカタールはこういう世界のサッカーの祭典を、中東で初めてのワールドカップを開ける。これから選手を率いてカタールに行かれるチーム森保の活躍を本当に期待してますし、そういう意味で、そこに行ける幸せっていうのを感じていただけるといいなと思います。

時空を超えてなんて簡単に言いますけど、間違いなく宇宙ステーションでも試合を見ていると思います。

森保一監督

へぇ、すごい…。

野口聡一さん

1個のボールに、スタジアムその場はもちろん、周辺の国、自国、宇宙ステーションにいる宇宙飛行士含めてみんなの気持ちが宿るっていう体験を、目の前でされる監督が羨ましいなと思います。

森保一監督

我々の試合を見ていただいて、サッカー少年少女に夢や希望を持ってもらう、勝利で喜んでもらう笑顔になってもらう。試合で頑張っている選手たちを見て頂いて、サポーターや国民の皆さんに、元気であったり勇気であったりっていうことを感じてもらいたい、届けたいと思っています。

選手たちは本当に最後まで諦めず戦い抜くっていうことを見せてくれますので、そこで根気強く過ごしていくための励ましのエールであったり活力を持ってもらえるように、ワールドカップを戦いたいなと思います。いつも、元気、勇気、根気を感じていただけるようにっていうのはいつも心の中に持ちながら、描きながら、活動させていただいています。ワールドカップでも、日本人の誇りを持って日本のために戦って、サポーターと国民の皆さんとともに喜べる結果を出したいなと思います。

森保一監督×野口聡一さん対談 前編「チームビルディング」はこちら