発掘ニュース

No.251

2019.11.22

趣味/教育

「釣りキチ三平」の矢口高雄さんから発掘!

『釣りキチ三平』、子供の頃に夢中になって漫画を読み、釣りを始めるきっかけになった方も多いことと思います。今回の発掘提供者は漫画家の矢口高雄さんです。

10月に80歳の誕生日を迎えられた矢口さん、『ひるまえほっと』(関東甲信越のみの放送)の「発掘!お宝番組」にご出演いただきました。
「80歳になったら、もう役が終わったなとしょぼくれてしまう人も多いようですが、僕はよくぞこれまでやってきたなと、とっても誇らしい気分です。」

まずは矢口さんから提供いただいた番組…

松平アナ「釣りの漫画でお馴染みの矢口高雄さん!」とオープニングで紹介された矢口さん、見事『太公望』という問題を当てました!

『ひるのプレゼント』(1981年)のテーマはもちろん“釣り”“スプーン”と呼ばれるルアー(疑似餌)の一つを手に…。

矢口さん「かつて日本でこんなものが釣りエサとして使われるなんて考えた人は誰もいなかったと思いますねぇ。」

『みんなのうた』(1978年)のイラストも担当。

1970年代から80年代にかけて子供たちに人気だった『600こちら情報部』、1月に放送したイラスト年賀状コンクールでは審査員に!オープニングの挨拶では…

「このお正月、ハワイに釣りに行ってきました。でっかいカジキマグロに挑戦してきたんです。ちょっと焼けてます。」

久しぶりにご覧になって…?
「自分の作品がどんどん世の中に受け入れられると自信につながるのかねぇ、ずいぶん生意気になってる。そんなに僕はしゃべるタイプではないのですが、饒舌になってます。(笑)」

今回、特に貴重だったのが『明るい農村』!

懐かしいテーマ音楽とともに始まった『明るい農村』(1979年)、今からおよそ40年前に放送した「わが村わが故郷 劇画の中の出稼ぎ村」という回です。1979年秋、矢口さんが訪ねた秋田県増田町(現在の横手市増田町)は30歳までの12年間銀行員として勤めた場所です。

「僕はちょうど、その頃銀行員でしたから、脱サラをやったわけです。家内と子供を、この十文字にアパートを借りて、呼ぶまで何とか食いつなげるだけ食いつないでほしいと。背水の陣という形の脱サラでした。」

矢口さんの育った村は、町から車でさらに30分ほどの山の中。
番組には撮影当時ご健在だったお父様とお母様の姿が映っていました。

この土地は、矢口さんの代表作の一つ『おらが村』の舞台でもあります。冬は大雪に埋もれる出稼ぎの村。そこに生きる農民の喜びや悲しみを自身の体験をもとに描いた作品です。

里帰りの目的は『おらが村』第2部の取材でもありました。60軒ほどの農家が暮らすこの村に対する思いを矢口さんは番組の中で語っています。

「このワラぶき屋根、いかにも田舎らしくて良いな…とか、この村はいつまでも変わらないで欲しいという感じを持つわけです。しかし僕は、こういう考え方は便利な都会に生活圏を有する者の、心のおごりであろうと思うんです。そこで生活する人間の身になってみれば、アルミサッシの窓やステンレスの流し台、タイル張りの浴槽だったりが良いに決まっているし、どんどん村よ変わって欲しいと。故郷はいつまでも同じでなくてどんどん変わって欲しいと思う一人なんです。」

「なにしろ40年前ですから、村にNHKのカメラが入るなんていうことは初めてのことでした。高雄は売名行為のためにNHKにお金をずいぶん払って撮影隊を連れてきた…と村中でそういう噂をされたそうです(笑)。」

今の村は…?
「僕が中学を終えるころから集団就職で中学卒業生がどんどん夜行列車で東京方面に出たんです。自分の娘は農家には嫁がせたくないという親たちが出てきて、同時に自分の息子には農家になる嫁さんが欲しいという、実に相矛盾する状態でした。それがどんどんスピードアップしてきて少子高齢化が始まっていくわけです。僕が子供の頃は集落に84軒あったそうです。その頃はたくさんの人で、子供たちは道路で遊んで泣き声も聞こえるにぎやかさ。それが去年は41軒になって…。じゃあ人口も半減か?というとそうではなく、お年寄りの一人世帯も多く、さらに減っている。」

ところが、この故郷にひと月に何万人もの人が訪れるように!

矢口さんがアーカイブ活動を進めている「横手市増田まんが美術館」。ヒット作を生んできた矢口さんの漫画創作活動を記念して1995年にオープン。この「まんが美術館」を目当てに、ひと月に何万人もの観光客が訪れています!

館内には矢口さんをはじめとする有名漫画家の原画の展示や…

約2万5千冊の漫画が無料で読めるライブラリー。まさに漫画に特化した美術館となっています。

あちこちに漫画をモチーフにした遊び心がいっぱい。5月にリニューアルオープンして以来、すでに11万人が来場しました。

リニューアルの目玉は日本でも珍しい「原画の保存と活用」です。漫画の原画は、その漫画が印刷されれば役目は終わりです。しかし原画こそ、作家が精魂こめて描いた作品です。

印刷された漫画と比較すると…特にうろこの部分。原画は1枚1枚細かく書かれているのが分かり、印刷の方はインクでつぶれています。原画でしか見られない作者の技です。

紙に書かれた原画は時間と共に劣化がすすみます。それを防ぐため、この美術館では最新の技術を取り入れた保存活動を行っています。

寄贈された原画は、まず初版本と照らしあわし、すべてのページがそろっているか確認。
原画1枚1枚の情報を登録していきます。そして精密な装置でスキャン。鮮明なデジタルデータを作成します。

紙の原画は、ページの間に中性紙という劣化を抑える紙を挟み、さらに作品ごとに中性紙の袋に入れます。この袋を中性紙で出来た段ボールにいれ、温度や湿度が管理された部屋の引き出しで保存しています。

漫画家にとって原画とは…?
「漫画家が全てを注ぎ込んで描いたものですから、自分の子供のような大切なものだと考えています。漫画の原画は単行本や雑誌を作るための“版下”として描かれたものですから、印刷が終わると役目が果てるわけです。漫画家はそれを大切に保管しているんですが、月日がたつごとにどんどん変色したり大変。ましてや漫画家が亡くなって子供たちが受け継ぐことになればどうしたら良いか…?」

漫画の原画は保存だけでなく活用も!

有効活用の1つが「大型タッチパネル」『釣りキチ三平』がこんなに大きく!スキャンして作成したデジタルデータから原画を呼び出して、自由に拡大し。ペンさばきや作画のタッチといった表現方法のディテールまで見ることが出来ます。

もう1つが、「ヒキダシステム」

原画を月替わりで引き出しにいれ、上から順に見ていくと10ページ分を原画で読むことができる展示方法です。

「原画は保存するだけでは成り立たない。つまり活用と保存は両輪だという考え方の中で、館内で楽しんでいただく活用のほかに、町づくりに漫画を活かしていくという方法も含めて市として取り組んでいくという状況です。」

現在、日本漫画家協会の理事長も務めている里中満智子さんからもメッセージが…
「マンガ文化を残すためにはアーカイブ化が必要不可欠です。アーカイブを充実させるためにも、もとの原稿を保管しておくべきです」

当初は「矢口高雄記念館」にしようという計画もあったそうですが…?
「名前を付けると私が終わると終わりますから…。日本全国の有名な漫画家たちみんなから協力を得て、“みんなの”『まんが美術館』にしようと構想して今に至っているんです。日本の漫画はクールジャパンとしてアメリカ、ヨーロッパ、東アジアなどで大人気で、こんなに世界に羽ばたくとは思っていませんでした。」

「保存」と「活用」、どちらも大切な車の両輪であること、これはテレビの番組映像のアーカイブスでも全く同じことで、矢口さんが進める漫画の原画アーカイブスに大いに共感する今回の発掘でした。
矢口さん、ありがとうございました!

思い出・コメントはこちら

ページTOP