アカイさんノート: 2008/06/20

連続テレビ小説「おしん」(2)反響編

 テレビドラマ史上最高視聴率62.9%を記録した連続テレビ小説『おしん』(1983年4月から1年間放送)。その人気は、「朝の放送時間は水道の使用量が激減した」と言われたほどだった。今回は、日本中、そして世界中に広がった空前の"おしんブーム"を紹介する。

"おしんドローム"が流行語に

 おしんの人気は数々の便乗商品を生んだ。おしんの故郷・山形では、「おしんまんじゅう」「おしん酒」などの土産物が販売され、最上川の舟下り「芭蕉ライン」は「おしんライン」に改名された。「おしんの子守唄」のレコードや、アニメ・漫画・舞台も次々に生まれた。

oshin2-01.gif

 

 さらに、当時の竹下蔵相が「おしんに学ぶ日本経済」、中曽根首相が「おしん国会」と発言。当時の稲山経団連会長も「これからの時代はおしんのような、我慢の哲学が必要だ」と発言するなどブームは政財界にも波及。この年、糖尿病と闘いながら時間をかけて横綱に昇進した第59代横綱・隆の里は「おしん横綱」と呼ばれ、"おしん"という言葉が"辛抱"と同じ意味で使われた。

 これら一連の動きは、「おしんシンドローム(おしん症候群)」と呼ばれ、その略語の「おしんドローム」は流行語になった。

 

女が泣いた、男も泣いた

 NHKは、放送開始半年後の1983(昭和58)年10月、NHKは全国の20歳以上の男女2,000人を対象に「おしんと日本人」の世論調査を行なった。その結果、98%の人が「『おしん』というドラマをNHKで放送していることを知っている」と答え、『おしん』を見ている人の44%が「涙した」と回答した。内訳は、男性が23%で、女性が56%。男性はおよそ4人に1人、女性は半数以上が涙したことになる。

 『おしん』は多くの人の涙を誘い、その涙がさらにブームに火をつけていったのである。

 

世界も泣いた

 『おしん』は放送中から海外でも評判となり、各国から引き合いが相次いだ。1984(昭和59)年秋のシンガポールに始まり、これまで世界64の国と地域(2008年5月現在)で放送され、「日本といえばおしん」と連想されるほどの反響を巻き起こした。 

 シンガポールが『おしん』を、海外で初めて放送したきっかけは、駐日シンガポール大使の黄金輝(ウイ・キムウイ)氏が、おしんの大ファンだったことによる。日本での放送当時、日本在住の外国人の間にも"おしんブーム"が起こり、毎日、欠かさず見るという人が数多くいたが、ウイ氏もその1人だった。大使の任期を終えたウイ氏は、シンガポール放送協会の経営委員長に就任することになり、NHKに「私は『おしん』の大ファンである。是非シンガポールで放送したいので提供してほしい」と申し入れた。

 シンガポールで放送が始まると、視聴率は80%に達する大ヒット。これが呼び水となって、タイ、オーストラリア、アメリカ、中国などでも放送された。

 海外での放送は、日本語版や英語版に自国語の字幕スーパーを入れたり、自国語で吹き替えたりした。

 各国での反響は、日本国内に勝るとも劣らないものだった。


●中国では、日本で放送された翌年、1985年3月から中国語の吹き替えで放送され、北京での視聴率は75.9%を記録した。中国語で『おしん』は、『阿信』(アーシン)と表記された(中国語の「阿」が日本語の「お」に相当し、「信」の方は当て字)。主な反響は、「あの日本人たちが現在の経済大国の底力であったことがわかり納得できた」「中国と日本に共通した伝統的な倫理観が根ざしている。だから我々は何の抵抗もなくこのドラマを受け入れることができた」というものだった。

●ベルギーでは、修道院の尼僧が『おしん』を見るために、お祈りの時間を変更した。

●タイでは、当時、日本の経済進出に対する批判記事が毎日のように新聞に掲載されていたが、『おしん』の放送が始まってしばらくすると少なくなった。

●エジプトでは、生まれた子どもに『おしん』と名付けるひとたちがいた。

●カナダやイランでは、『おしん』のために現金や米が放送局に届いた。

●モンゴルでは、放送時間に道路から人の姿が消えた。

 『おしん』は、日本にも貧困の時代があったことを知らせ、発展途上国の人々を勇気付ける効果も示したのだった。

 日本での放送終了から7年たった1991年2月、東京経団連国際会議場で、おしんを放送した世界各国の関係者が集まり、国際シンポジウム「世界はおしんをどう見たか」(主催:NHKインターナショナル)が開催された。パネリストとして参加した原作・脚本の橋田寿賀子さんは「日本を支えた人たちを書きたかったという気持ちが皆さんに伝わったことは、非常にうれしゅうございます」と発言。
 それに対し、中国社会科学院の李徳純氏は「あなたたち日本人だけの『おしん』ではない。私たち、中国人、タイ人、インドネシア人、ヨーロッパ人、全世界の『おしん』です。日本のみなさんは独占してはいけません。おしんという人物のイメージ、特にその民族精神、これを私は、全世界の共有する尊い財産だと思います」と語った。
 日本のある1人の女性の生涯を丹念に描くことで、逆に、『おしん』は世界共通語となったことを、李徳純氏の言葉は雄弁に語っている。

 また、1993年、NHK衛星第2『BS青春TVタイムトラベル』で、民放とNHKの過去に放送されたテレビ番組から「もう一度ふれたいあの感動」のファン投票を行なったところ、100万人の投票から第1位は『おしん』だった。
 1人の女性の生き方は、時代を越えて共感を呼んでいるのだ。

 次回は、演出を担当したディレクターのインタビューから、『おしん』制作の舞台裏をご紹介しよう。


『おしん』を放送した64の国と地域(2008年5月現在)
 
1984(昭和59)年度 シンガポール、アメリカ、オーストラリア、タイ
  85年度 中国、ポーランド、香港、マカオ、ブラジル、ベルギー、カナダ
  86年度 マレーシア、インドネシア、イラン
  87年度 スリランカ、サウジアラビア
  88年度 ブルネイ、メキシコ、カタール
  89年度 バーレーン
  90年度 シリア、フィリピン、ドミニカ共和国、バングラデシュ、ペルー
  91年度 パキスタン、ボリビア、パナマ
  92年度 ネパール、グアテマラ、ニカラグア、エジプト、インド
  93年度 ルーマニア、チリ、ウルグアイ、ジャマイカ、ガーナ、
        ホンジュラス、キューバ
  94年度 ベトナム、台湾
  95年度 ミャンマー、コスタリカ、パラグアイ、カンボジア
  96年度 ラオス、モンゴル、スーダン、トルコ、ブルガリア
  97年度 マケドニア
  98年度 エチオピア、ベネズエラ
  99年度 アルゼンチン
 2000年度 コロンビア、タンザニア、ウズベキスタン
  01年度 エリトリア
  03年度 イラク
  04年度 アフガニスタン
  05年度 ブータン
  06年度 ガボン
  07年度 タジキスタン


※現在新規コメントは受け付けておりません

みなさんからの投稿

  • NHKオンデマンドで「少女編」を一気に見ました。
    昔断片的に見た映像がやっと一つになりました。
    私の父とその妹は小学生と3歳で母を亡くし、後、奉公に出されました。その話を聞いていますので、「おしん」は涙、涙、涙です。

    1点。逃亡兵(中村雅俊)がおしんに「君死にたまふことなかれ」を読んで聞かせますが、「第2連」が間違っているのです!!
    「何事ぞ」「君はしらじな」を・・・「何事か」「君はしるべきや」と読んでいる。(私の愛唱詩で暗記しています)
    「明星」掲載時の原詩か? 橋田氏の「脚本」か、 中村氏の「読み違い」か、残念です。

    北海道の69歳の男性|投稿日2013年03月26日 22:57

  • 2013年 NHKオンデマンドで「おしん」を1週間で、すべて見ました。私を中心に、重度の知的障害を長男も福祉作業所から16時45分に帰宅すると、必ず「おしん」を見たいといいます。「おしん」を見ていると時間の経過を忘れて、入浴が遅れてしまいます。
    ドラマの途中で、佐賀のお母さんを鬼婆と憎みました。
    そして多くの場面で涙を流しました。でも最終回で「仁」の奥さんをはじめ家族皆さんの温かいお心に感激しました。
    人としての生き様を大変多く「おしん」から学びました。ありがとうございました。

    千葉の74歳男性|投稿日2013年03月08日 03:03

  • 2013年 おしん全話の再放送がBSで始まりました!

    当時小学生で朝も昼も学校で観ることができなかったため、ほぼ初めて観ることとなりました。

    世界が賞賛した本作品を30年も経って観ることになるとは、嬉しいやら悲しいやらで。

    明治よりも1983年よりも何もかも便利になった現在ですが、改めておしんを観ながら人としての「生き方」を学びたいと思っております。

    MR|投稿日2013年03月04日 01:40

  • 佐賀での出来事が全く同じなので、つらいと思い、私は平成の今の時代でおしんが経験した同じ事を経験しています姑の事とか旦那の事とかがおしんと同じなので、おしんが放送されていた時私は10歳、小学3年生でした、あの時はおしんのことは知りませんでした

    リラックマ|投稿日2010年06月15日 01:03

  • 「反響」ってことで思い出すのは、亡くなった横山やすしさんが「おしん」を大絶賛してたことかなぁ~。
    当時久米宏さんとやってた「TVスクランブル」っていう番組で、涙を流さんばかりに小林綾子ちゃんのおしんを誉めまくってました。
    奉公先でおしんが先輩の女中さんに理不尽にいびられたり、お金を盗んだと疑われる展開に、そりゃ~もう、エライ剣幕で怒ってました(笑)。

    更紗|投稿日2008年06月22日 00:24