アカイさんノート: 2018/07/27

NHK人物録 大石静

1.PNG

(プロフィール)

東京都出身。1986年に『水曜日の恋人』で脚本家デビュー。97年、連続テレビ小説『ふたりっ子』で第15回向田邦子賞と第5回橋田賞をダブル受賞。2008年、『恋せども、愛せども』で文化庁芸術祭賞テレビ部門優秀賞を受賞。NHKでは、大河ドラマ『功名が辻』、『セカンドバージン』『ガラスの家』『コントレール 罪と恋』など数々のヒット作を世に送り出す。また2019年春に放送の『永遠のニシパ 〜北海道と名付けた男 松浦武四郎〜』の脚本も手がけている。

 

 

連続テレビ小説 ふたりっ子(1997) 脚本

D0009120686_00000_S_001.jpgarchives_comment_button01.gif

 

どんな作品に取り組むときも必ず「当てる」つもりで書くのですが、『ふたりっ子』の場合は15分ずつのお話を毎日見ていただくのですから、テンポを大切にしたのを覚えています。とにかく盛りだくさんの話を構築して、前へ前へとお話を進めていくこと。そして、ヒロインの天使の心と悪魔の心を描く方針で書き始めました。だって、かわいくて健気なヒロインが、いい人たちに応援されながら生きていくって、人生そんなもんじゃないでしょう。もう少しリアルに毒を描いた方がいいと、スタッフも賛同してくれました。
 

2.PNG

双子のヒロイン 香子(三倉佳奈)と麗子(三倉茉奈)

この作品は55作目の連続テレビ小説。すでにあらゆる職業を描いていたので、皆でどんな職業を描くか頭を悩ませました。みそ、しょうゆなど大豆系を扱った作品は「当たる」というので、「納豆か」という話も出たのですが、大阪が舞台で納豆はないだろうと、豆腐屋さんのお話になったんです。


また、ヒロインのひとり・香子が後に棋士になることは、当時のディレクターのひとりだった鈴木圭さんの発案でした。私は将棋なんて何も分からないから「え〜」と言ったのだけど、ちょうど羽生善治さんが六冠を獲ったところで、初の七冠制覇なるかと世間の注目を集めている時期。それで私も王将戦の見学に行かせていただいたんです。それはすごい緊張感の世界でしたね。羽生さんと対局したのは谷川浩司さん。2人のキャラの違いも興味深かったですし、静かな部屋に響く「パチン」という音を聞いて、これはいいかもしれないと思ったの。そうしたら羽生さんが見事に王将戦を制し、翌日の新聞の一面は羽生七冠制覇のニュースで持ちきり。ドラマにも追い風が吹いたように感じたのを覚えています。

 

3.PNG

将棋と出会った香子は勝負の世界にのめり込んでゆく

4.PNG5.PNG

プロ棋士となった香子(岩崎ひろみ)が羽生善治名人(当時)と対局する場面も

大河ドラマ 功名が辻(2006) 脚本

D0009120687_00000_S_001.jpg

archives_comment_button01.gif

 

当初はオリジナルで大河ドラマを描きたかったのですが、司馬遼太郎さんの原作には想像の余地がかなり残されていたので、好きに書ける部分もあるからいいなと思いました。ですから、司馬さんの原作からはいくつかのエピソードしかいただいていません。オリジナルに近いくらい私が創作しました。

一豊が顔を指し抜かれる傷を負ったエピソードや千代が夫に馬を買わせるため大金を出した話、小りん(長澤まさみ)に誘惑されるところなどは司馬さんの原作から。光秀(坂東三津五郎)、お濃(和久井映見)のラブストーリーは私のオリジナルです。

 116.jpg

千代(仲間由紀恵)の明るさと機転が一豊(上川隆也)を支え、一国一城の主に押し上げる

また、この作品で一番気に入っているのは三英傑のキャラクター。信長、秀吉、家康は本来主役になる人たちですが、この時は脇役だったので、狡猾なギャングの親玉みたいな怖い人にしようって。台本上はホントに恐ろしい人として描いたつもりです。

時代は戦国ですが、山内一豊やその周辺の人々は、いわゆるサラリーマンの中間管理職みたいな人達。織田信長が社長でね。そんななかで、抜きつ抜かれつ誰が偉くなっていくかというお話で、現代の会社と同じだなと思いました。

 

7.jpg信長(舘ひろし)

8.jpg9.jpg

メイクにもこだわった秀吉(柄本明)と家康(西田敏行)

ドラマは主人公の千代(仲間由紀恵)と夫の山内一豊(上川隆也)を中心に動いていきますが、実はこの時代の女性は男性と対等だったんだそうです。千代の場合も夫よりも頭が回る人物。夫の一豊はと言えば、一本気で人はいいけれど、どこかぼーっとしていて偉くもならないという…。そんな夫を押し上げている妻というのは、大河ドラマでも珍しいですよね。秀吉と寧々にしても、利家とまつにしても、夫がそもそも優秀だったんですから(笑)。

  

10.jpg

 

 

 

ドラマ10 セカンドバージン 脚本(2010)

D0009120688_00000_S_001.jpg

archives_comment_button01.gif

 

一人で見ないと恥ずかしいようなドラマだったでしょう。ご主人が寝てからとか、子どもが出かけてから見るような。でも実はラブシーンはあまり多くなかったんですよ。セリフがエッチだったの。例えば、万里江(深田恭子)が、夫・行(長谷川博己)の不倫相手とは知らずに、夫婦の寝室での愚痴をるい(鈴木京香)に話すシーン。この時、真里江が「あの人体位を変えないんです」と言うんです。するとるいは「私の時は変えてるけど」と心の中で言うんです。また、行がるいとベッドを共にした後、「大きい声出してた」と行が言うんです。こういうセリフを入れることで、ラブシーンを1回見ただけで3回見たような気になる。セリフがとにかくエッチだったので、時々不安になって、プロデューサーに相談したら、「セリフは何でもありです」って言われて、それからは自信もってエッチな台詞を書きました。(笑)。

  

11.jpg

ヒロイン・るい(鈴木京香)

12.jpg

行(長谷川博己)

行を演じた長谷川さんは、少し前に手がけていた民放のドラマに小さな役で出ていたんですよ。顔合わせのときは印象がなかったのに、前室で見ると「誰だ、このきれいな男の人は!」と気になりました。清潔感を超える透明感のようなものを持っている人だと、今でも思います。それでNHKさんに推薦したんですよ。当時はほとんど無名の役者さんだったので、よくNHKが決意してくれましたよね。民放ではありえません。この作品の勝因はるいと行を演じた2人の役者の清潔感と品の良さが大きかったと思います。ほかの役者さんではこうはいかなかったかも。黒崎博さん、柳川強さんの演出も素晴らしかったし、梅林茂さんの音楽が独特の世界観を打ち出してました。

 

13.jpgるいの目の前で撃たれた行は…

14.jpg

ドラマ10 ガラスの家(2013) 脚本

D0009120689_00000_S_001.jpg

archives_comment_button01.gif

 

ヒロインの黎を演じた井川遥さんが本当に輝くように美しくて。女性から見ても「男たち、みんな好きになっちゃうよね」と感じたと思います。

15.PNG

ヒロイン・黎(井川遥)

男だけの家族に、ひとり妖艶な美女が入って来ただけで、これまでの家族の歴史も全てが変わる、そんなドラマを書いてみたいと思ったんです。「セカンドバージン」の行もそうですが、この家族の男達も官僚です。エリートが壊れて行くのが好きなので(笑)、黎の夫・一成(藤本隆宏)と義理の息子で後に恋に落ちる仁志(斎藤工)は、ともに財務官僚。斎藤工さんは、官僚らしく白いシャツに地味なスーツを着て、髪型も割と大人しい感じだったのですが、それがかえって彼の魅力を引き出していたんじゃないかな。ああいう風に堅い感じにすると色気がグッと前に出てきますよね。

 

16.jpg黎は財務官僚・澁澤一成(藤本隆宏)の妻となるが…

17.PNG

長男の仁志(斎藤工)は若く美しい義母にひかれてゆく

 

すると色気がグッと前に出てきますよね。

実は裏テーマもあって、消費税増税を決めたばかりの財務省を描いたのがそれ。恋愛ドラマなので、視聴者の意識は向いていないかもしれないけれど、一成は次期事務次官候補で政治家も手玉に取るほどのやり手。官僚や政治家にも取材して、財務省の恐ろしさもかなり描きました。現役官僚に、良く調べてあると誉められましたから。

19.jpg

父と子は仕事の上でも対立を深め…

 

 

ドラマ10 コントレール〜罪と恋〜(2016) 脚本

D0009120690_00000_S_001.jpgarchives_comment_button01.gif

 

恋愛を描くときに必ずタブーを盛り込むようにしています。『セカバ(セカンドバージン)』では年齢差のある男女の不倫、『ガラスの家』では義母と義理の息子の恋を描きましたが、『コントレール』では夫を失ったヒロインと、犯人を止めようとしたはずみで彼女の夫を殺めてしまった男の恋を描きました。

石田ゆり子さん演じる文と井浦新さん扮する瞭司が、お互いに何も知らぬままに知り合い、引かれ合うというストーリー。そこに瞭司が事件のショックで失語症になっているという設定を加えたのですが、井浦さん=瞭司の色気を倍増させていると思いませんか。

  

20.jpg

無差別殺人事件で夫を失った文(石田ゆり子)

21.jpg

声を失い、トラックドライバーとして生きる瞭司(井浦新)と出会い…

このドラマでは文と瞭司、そして刑事の佐々岡(原田泰造)の三角関係も見どころでした。実は当初、企画書の段階では佐々岡が背中を押して文と瞭司が結ばれる設定だったんですよ。だけど、文の息子を演じた子の表情を見ているうちに、この子を連れて父親を殺した人と生きていくのは絶対無理だと思ったの。だから文は佐々岡と生きていくことにしたんです。誰の人生も思い通りには行かないものですからね。書きながらしみじみ切なかったです、このドラマのラストは。

 

 

 22.jpg

文の息子・友樹は刑事の佐々岡(原田泰造)をしたう

 

23.jpg