NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』(2)

ドキュメンタリー/教養平成1ケタ代1980年代あ-おさ-そA-MN-Z


現代に生きる人間
その存在を支える営みの神秘


番組ノート

2009年5月8日(金)

 1989(平成元)年6月と9月の2回に分けて、それぞれ3夜連続の6回シリーズで放送されたNHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』。9月放送のシリーズ後半は、「肝臓」「骨・筋肉」「免疫」という人間の存在を支える体の営みに迫っていった。
 今回は、番組制作者たちのねらい、視点についてお伝えしよう。


驚異の小宇宙 人体   驚異の小宇宙 人体

人体はニューヨーク?!

 『人体』シリーズは人間の体を"小宇宙"にたとえたが、最初からそうだったわけではないようだ。

 シリーズの制作に先立ち、監修委員の専門家を交えた最初の会議のときのこと。制作スタッフは、人体を「調和のとれた森 ―― 平和な世界」にたとえて番組のコンセプトを説明しようとした。すると、医学、生命科学、医療倫理の権威である監修委員から異論が出された。結局全員の先生が異議を唱えたという。
 口火を切ったのは免疫学の権威、多田富雄東京大学教授(当時)。「人体はそうした平和な世界ではなく、犯罪と愛と狂気と知性と破壊と富と創造と末期症状と...あらゆる行為と思いを包括する大都市だと思います」。
 つまり、体内ではバクテリア、ウイルス、薬物、毒物と細胞とが日々闘いを繰り広げている。そして高速道路のような血管ネットワークを走り回る赤血球、白血球、リンパ球。また、精子と卵子の愛の出会い。雑然としているようで、全体を俯瞰してみると大都市のように機能的な生活が営まれている。まさに人体はニューヨークのイメージだというのだ。人体のイメージは、森、大都市を経て、小宇宙となっていったのだ。


世界のどこかに もう一人の"自分"?!

 第6集「生命を守る~ミクロの戦士たち~」では免疫を取り上げた。
 免疫が外敵と闘うときの基本戦略は、"自分とそうでないもの"を識別すること。人間はすべての細胞に「自分のマーク」をつけていて、そのマークはひとりひとり違う。それを見つけて、異なるものを排除していくのが免疫だ。細胞の表面にはHLAという遺伝子があり、これが「自己」を決める実体であるという。

 この「自己」決定について、担当ディレクターはこう語っている。
 「両親といえども、子どもと同じものを持つ例はほとんどありませんが、自分が行ったこともない国に、自分と同じ"自己のマーク"を持った人間がいることもあるんです。親、兄弟よりも自分に近い、というより"もう一人の自分"がどこかにいるんです」
 もう一人の私はどこにいるのだろうか...そんな思いにさせてくれる不思議な話である。


 


 6回のシリーズ終了後、番組担当プロデューサーはこう語っている。
 「特に第6集は、人間の"生と死"の問題を深く考えさせてくれる。この第6集で『人体』シリーズは一応の区切りを終える。しかしながら、まだやり残していることは多い。脳と心の問題である。いつの日か、このテーマを番組にしたいと強く思う」
その思いは、4年後の1993(平成5)年、NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体Ⅱ 脳と心』(6回シリーズ)として実を結ぶ。さらに、1999(平成11)年には、NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体Ⅲ 遺伝子』(7回シリーズ=特番1本含む)も制作され、ヒトの体の形や体質を決める遺伝子の謎に迫った。

 "小宇宙"の未知の謎は、まだまだたくさんあるだろう。今後も、最新の科学と映像技術、そして新たな視点でこうしたシリーズが制作されるのを楽しみに待ちたいと思う。



NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』
◇放送期間:1989(平成元)年6月10日(土)、11日(日)、12日(月)
                  9月10日(月)、11日(火)、12日(水)
◇放送時間:総合テレビ 第1、2集 21:00~21:50
                第3、5、6集 20:00~20:50
                第4集 21:00~21:55
◇音楽:久石譲
◇司会・進行:タモリ、小出五郎(NHK解説委員)
◇ナレーション:山根基世アナウンサー


●第1集 「生命誕生」
 わずか0.1mmの1つの受精卵から、地球上の生命が伝え続けてきたDNA情報を受け継いで、一つの秩序だった"60兆の細胞社会"を形作っていく35億年生命のストーリー。卵子と精子の出会いから赤ちゃん誕生までの280日間の壮大な出来事を、実写、特撮、CGなどでわかりやすく解き明かす。

●第2集 「しなやかなポンプ~心臓・血管~」
 一生のあいだ休みなく働き続けるタフな臓器、心臓。心臓は、止まれば死に至るという絶対的な信頼性が必要な臓器である。と同時に、私たちの心の動きを反映して刻々と鼓動を変える、"心を映す鏡"ともいうべきしなやかで柔軟なポンプでもある。若き能楽師・梅若猶彦さんが、若手の登竜門といえる『道成寺』という作品に取り組む姿を追いながら、試練を乗り越えるときの心臓の姿を描く。

●第3集 「消化吸収の妙~胃・腸~」
 食物が口に入った瞬間から、人体の中では計り知れないドラマが繰り広げられる。胃壁の鮮明な画像。胃の働き。小腸の絨毛の超ミクロの世界。わずか1日で死んでいく小腸の栄養吸収細胞。栄養が吸収される瞬間。身近で日常的な"食べる"という営みのこれらの絶妙な連携プレーを、ファイバースコープや内視鏡、ミクロの顕微鏡映像、最高倍率100万倍の電子顕微鏡、美しいCG、特撮、模型など最新の技術を駆使して迫る。

●第4集 「壮大な化学工場~肝臓~」
 肝臓は、栄養分を作り、人体を支える60兆の細胞へと送り出すという、人体を常に一定の状態に保つための重要な役割を果たしている。そして同時に、本来必要のないさまざまな未知の物質や人工物質、アルコール、薬品、ウイルスなどを受けとめて処理する体内浄化装置である。細胞レベルのミクロの世界を探りながら、人間の生活というマクロの世界も描く。

●第5集 「なめらかな連携プレー~骨・筋肉~」
 骨の役割は大きく2つある。一つは体を支え、スムーズな運動を行うための機能。そしてもう一つは、カルシウムを体内に蓄える貯蔵庫としての役割だ。カルシウムは骨の材料であると同時に、筋肉の収縮のきっかけとなる。さらに、ホルモンの分泌や神経細胞の刺激にも関わる重要な物質だ。骨は常に壊され、同時に常に新しく生み出されている。およそ2年間で人体の骨はすっかり入れ替わっているという。その骨の細胞のメカニズムはどのようなものなのか。筋肉と骨の連携プレーの秘密に迫る。

●第6集 「生命を守る~ミクロの戦士たち~」
 免疫は、自分と自分でないものを識別し、自分でない異物を排除していく人体の防御システムである。この免疫の主役となるのが、白血球やリンパ球などの"ミクロの戦士"、すなわち、骨髄で作られる免疫細胞である。免疫細胞が作られる過程の障害による再生不良性貧血という難病に冒された少女が、姉からの骨髄移植を受け回復していく過程を追いながら、CGで描くバクテリアとミクロの戦士たちの戦闘シーンなど、生命維持のための闘いを描く。

番組公開ライブラリーで観られるのじゃ!

驚異の小宇宙 人体

 今回取り上げたNHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』は、6集すべてを全国のNHKにある 番組公開ライブラリーで観ることができる。改めて、人体の神秘に触れてほしい。

視聴できる番組の検索・お近くの番組公開ライブラリーはこちら


みなさんからの投稿

マルチタレント、タモリさんならではの司会進行で、普段、不思議に思っていた人体の疑問を判り易く、CGなど最新の映像で解説したユニークな番組でした。 なぜ胃は、胃液で溶けないのか?、筋肉は、なぜ伸び縮みするのか?。 特に免疫の話は秀逸で、高度な組織力、情報戦、観ていてワクワクしました。 ホント人体は、ひとつの都市の様。発電所、上下水道、通信、ちょっとづつ建築したり、解体したり、廃材も再利用する、理想的なシステムですね。 いったい誰が作ったんだろう?。 人体を作った創造主は、天才ですよ!。

(あんとのふ)

投稿日2011年11月06日 12:05


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