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"最後の秘境" からだの内部に
最新の映像技術を駆使して迫る
2009年4月24日(金)
NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』は、1989(平成元)年の6月と9月、それぞれ3夜連続の6回シリーズで放送された科学ドキュメンタリー番組。身近でありながらほとんど知られていない"最後の秘境"人体を小宇宙にたとえて探求。その精緻(せいち)な働きを、電子顕微鏡などの実写映像をはじめ、CG(コンピューター・グラフィックス)、特撮映像を駆使して描き出した。今回はシリーズ前半の第1集から第3集を中心に、制作の舞台裏などを紹介しよう。

35億年生命と60兆細胞
45億年前に生まれた地球。その地球に最初の生命が誕生したのはおよそ35億年前。原始の海の中で生まれたRNA、DNAという有機物は、遺伝子として自己複製能力を獲得し、初めて"生命"となった。その後、気の遠くなるような年月のなかで生命は進化を重ね、多細胞生物か登場し、魚類が生まれ、恐竜が現れ、人類が誕生した。
この時間の流れを逆にたどれば、ヒトもサルも細菌も、ありとあらゆる生物の祖先はすべて単一の原始生命に行き着く。人体は35億年の進化の結晶といえる。
その人体は60兆個もの細胞からできている。銀河系にはおよそ2000億個の恒星があるとされているが、数でいえば、私たちの体の中には銀河系数百個分の星の数ほどの細胞があることになる。一つひとつの星は独立しながらも互いに関係を保ちつつ宇宙を構成しているように、人体の細胞の一つひとつが巧妙に連携し、組織や器官の相互作用を生み出し、生命の営みを紡ぎ出している。
人体 ―― この"最後の秘境"にミクロの目を持ち込み、生命に秘められた不思議を探検したい。これがこの番組制作の動機であったという。
ワンシーン撮影に1年半!
第1集「生命誕生」に、マウスの受精卵が体を形作っていくシーンが登場する。マウスの受精卵が子宮に着床して7日目から9日目までの2日間、胚子(はいし)と呼ばれる状態から、心臓や血管などを備えた胎児に成長するまでの姿をとらえたものだ。
実はこのシーン、延べ日数では21日間、期間にするとなんと1年半というたいへんな時間をかけて撮影したもの。なにしろ受精7日目のマウスの受精卵は直径0.8~1mm程度。輪郭のはっきりした映像が撮れるよう、試行錯誤のすえ、真横からライトを当てて陰影をつける方法を見つけ出した。
また、ライトのわずかな熱で細胞が死んでしまわないよう光ファイバーを使った最新の照明装置を使ったり、紫外線や赤外線をカットする特殊なフィルターを取り付けたりといったさまざまな工夫をこらした。その結果、これだけのシーンの撮影に1年半もの時間を費やしたのだ。
耳元で道路工事
制作スタッフは、第2集「しなやかなポンプ・心臓・血管」で心臓の拍動する様子をどうしてもCGで表現したいと考えた。そのためには心臓の動きに関する基礎データが必要だ。
基礎データ収集のため、当時最先端の医療装置として注目され始めていたMRI(核磁気共鳴画像装置)にスタッフ自らが実験台に入ったところ・・・。「ガンガンガンガン」と、耳元で道路工事をしているようなすさまじい音が延々と鳴り響いた。MRIは強力な磁場を発生させるために、電流を流す際、ひどい騒音を出すそうだ。患者さんの検査なら十数分で終わるのでなんとか我慢できるのだろうが、今回スタッフは基礎データが揃うまで耐えなければならない。スタッフたちは交代で挑戦したが、全員あえなくギブアップ。それでも、耳栓持参のカメラマンは3時間も耐えて頑張ったという。
ところが、集められた基礎データは結局すべてボツとなってしまった。MRI検査では患者は体を動かしてはならないのだが、長時間装置に入っていたスタッフたちはどうしても体が動いてしまっていた。せっかく苦労して集めたデータも不正確なものになってしまい、採用できなかったのだ。
台所で作った胃の内部
第3集「消化吸収の妙・胃腸」に出てきた特撮による人体内部の映像シーン。そこで使われている胃袋の模型は、普通に見れば模型と気づかないほど精巧な出来栄え。どんな特殊な道具で作ったのかと思いきや、お玉に鍋、ボウル、泡立て器と、台所用品のようなものばかりで、実際に小さなマンションのキッチンで作られたそうだ。
最も苦労したのは、本物の胃腸の"生きている"質感を出す素材。弾力性、つや、張りなどの条件にかなう素材は何か。人工イクラの材料からコンニャクまで、寒天質の材料を片っ端から調べていった。その結果、人工的に作られたものよりも自然界に存在する素材のほうが人体内部の質感にぴったりすることが分かったという(ようやく見つけたその素材が何かは、"企業秘密"だとか)。
撮影スタジオではこの模型を透明な水槽に沈めて撮影した。このとき、照明で水温が上がるため、模型の表面に細かな水泡が附着してしまう。これを避けるため、一度沸騰させた水を使うこととした(沸騰させて水中に溶けた空気を追い出すことで、水泡が付きにくくなる)。NHK放送センター内の社員食堂の調理場でお湯を沸かし、食堂の従業員たちがあきれ顔で見守るなか、スタッフが次々とバケツリレーでスタジオへ運んだという。
タモリさんが司会・進行を務めたというのも、『驚異の小宇宙 人体』が話題になった理由の一つだろう(タモリさんといえば、『人体』放送の3か月前まで司会を務めた自然番組『ウォッチング』でおなじみだった)。
番組ではさまざまなCGが登場して注目を集めたが、タモリさんもこのCGに興味深々。収録の合間を見ては、CG制作ルームをお忍びで訪れ、CGを使ったゲームに興じていたという。
タモリさんについて担当プロデューサーは、「温かみがあり、勘のよい方。あらゆることに好奇心を示し、人体のむずかしい内容を瞬時に、絶妙な比喩にして、分かりやすくかみ砕いてくれる。感服。そのタモリさんのおかげもあって、小・中、高校生や、若い女性もチャンネルをひねってくれた」と振り返っている(『驚異の小宇宙・人体』(NHK出版)シリーズあとがきより)。
NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』
◇放送期間:1989(平成元)年6月10日(土)、11日(日)、12日(月)
9月10日(月)、11日(火)、12日(水)
◇放送時間:総合テレビ 第1、2集 21:00~21:50
第3、5、6集 20:00~20:50
第4集 21:00~21:55
◇音楽:久石譲
◇司会・進行:タモリ、小出五郎(NHK解説委員)
◇ナレーション:山根基世アナウンサー
●第1集 「生命誕生」
わずか0.1mmの1つの受精卵から、地球上の生命が伝え続けてきたDNA情報を受け継いで、一つの秩序だった"60兆の細胞社会"を形作っていく35億年生命のストーリー。卵子と精子の出会いから赤ちゃん誕生までの280日間の壮大な出来事を、実写、特撮、CGなどでわかりやすく解き明かす。
●第2集 「しなやかなポンプ~心臓・血管~」
一生のあいだ休みなく働き続けるタフな臓器、心臓。心臓は、止まれば死に至るという絶対的な信頼性が必要な臓器である。と同時に、私たちの心の動きを反映して刻々と鼓動を変える、"心を映す鏡"ともいうべきしなやかで柔軟なポンプでもある。若き能楽師・梅若猶彦さんが、若手の登竜門といえる『道成寺』という作品に取り組む姿を追いながら、試練を乗り越えるときの心臓の姿を描く。
●第3集 「消化吸収の妙~胃・腸~」
食物が口に入った瞬間から、人体の中では計り知れないドラマが繰り広げられる。胃壁の鮮明な画像。胃の働き。小腸の絨毛の超ミクロの世界。わずか1日で死んでいく小腸の栄養吸収細胞。栄養が吸収される瞬間。身近で日常的な"食べる"という営みのこれらの絶妙な連携プレーを、ファイバースコープや内視鏡、ミクロの顕微鏡映像、最高倍率100万倍の電子顕微鏡、美しいCG、特撮、模型など最新の技術を駆使して迫る。
●第4集 「壮大な化学工場~肝臓~」
肝臓は、栄養分を作り、人体を支える60兆の細胞へと送り出すという、人体を常に一定の状態に保つための重要な役割を果たしている。そして同時に、本来必要のないさまざまな未知の物質や人工物質、アルコール、薬品、ウイルスなどを受けとめて処理する体内浄化装置である。細胞レベルのミクロの世界を探りながら、人間の生活というマクロの世界も描く。
●第5集 「なめらかな連携プレー~骨・筋肉~」
骨の役割は大きく2つある。一つは体を支え、スムーズな運動を行うための機能。そしてもう一つは、カルシウムを体内に蓄える貯蔵庫としての役割だ。カルシウムは骨の材料であると同時に、筋肉の収縮のきっかけとなる。さらに、ホルモンの分泌や神経細胞の刺激にも関わる重要な物質だ。骨は常に壊され、同時に常に新しく生み出されている。およそ2年間で人体の骨はすっかり入れ替わっているという。その骨の細胞のメカニズムはどのようなものなのか。筋肉と骨の連携プレーの秘密に迫る。
●第6集 「生命を守る~ミクロの戦士たち~」
免疫は、自分と自分でないものを識別し、自分でない異物を排除していく人体の防御システムである。この免疫の主役となるのが、白血球やリンパ球などの"ミクロの戦士"、すなわち、骨髄で作られる免疫細胞である。免疫細胞が作られる過程の障害による再生不良性貧血という難病に冒された少女が、姉からの骨髄移植を受け回復していく過程を追いながら、CGで描くバクテリアとミクロの戦士たちの戦闘シーンなど、生命維持のための闘いを描く。

今回取り上げたNHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』は、6集すべてを全国のNHKにある 番組公開ライブラリーで観ることができる。改めて、人体の神秘に触れてほしい。















海(?)のかなたから駆けてくる女性の映像に久石さんのテーマ曲が流れ、それにあわせて谷川俊太郎さんの詩、ちょっとしか憶えてないけど「からだ、闇に浮かぶ未知の惑星、、とおくけだものにつらなるもの、、」っていうのが字幕に出て、“人体”っていう文字が現れてくるオープニングに、毎回毎回感動してました。
第一回の「生命誕生」の、3億の精子がたった一つの卵子に出会うために長い旅に出るっていう、精子の映像(CG?)がなんかもう健気で、こういうのを見ると命を粗末にしちゃいかんって思いますよね。排卵の瞬間、受精の瞬間が気高く感じられました。
「心臓」のとき、スタジオのタモリさんの心拍数も計ったりして(NGの時の心拍数と比べてたみたい)、面白かったです。
(更紗)
投稿日2009年04月27日 17:58
私は第6集の胸腺の話で自分の体が愛おしくなってぼろぼろ泣きました。
(いたぽん)
投稿日2011年06月26日 01:15