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徹底的にリアリティにこだわった!
演出チーフが明かす『おしん』大ヒットの舞台裏
2008年6月27日(金)
最高視聴率62.9%を記録し、日本だけでなく海外でも大ブームを巻き起こした連続テレビ小説『おしん』(1983年4月~84年3月)。大ヒットの裏には、ホンモノよりホンモノらしいリアリティをめざした、制作スタッフたちの強いこだわりがあった。
今回は、『おしん』演出のチーフを務めた元ディレクターの江口浩之氏に、放送から25年たった2008年5月にインタビュー。『おしん』の舞台裏をじっくり聞いた。
撮影の様子 江口浩之氏
本物のセットで、役者も真剣に
(江口)「『おしん』制作スタッフの合言葉は『朝ごはんの箸が思わず止まってしまうテレビ小説』でした。当時は、朝ドラ(連続テレビ小説)の時に朝ご飯食べて、終わるとサラリーマンが出勤して行くんです。そのサラリーマンに箸を止めてもらい、"ながら視聴"ではなく、じっくり専念して見てもらおうと考えたのです。そのためには、ドラマ性がないとダメ。そこで、明治、大正、昭和を生き抜いた女性の一代記を強力に訴えていく番組を作ろうということになったわけです」
きれいごとではなく厳しい時代に生きた人間をリアルに描く、新しい朝ドラを ―― そのために、江口は、美術、照明など制作スタッフとともに徹底的にリアリティにこだわった。そして、時代考証の小木新造(後の江戸東京博物館長)と共に、史実に照らし合わせながらドラマで描かれる時代の衣装や生活用具などを細部までチェックした。ご飯一つをとっても、米の色、釜の形、火を焚く材料、米の他に何が入っていたのかを一つ一つ調べた。貧しさの象徴として有名になった「大根めし」でも、大根は何で切ったのか、などなどディテールにこだわった。
―― なぜ、そこまでこだわったのですか?
(江口)「セットや小道具などの出来具合は役者の演技に影響するんです。本物だと思うとその気になるんですね。明らかにニセモノだとわかると演技に力が入らなくなってしまいますから。セットがリアルになると、役者も真剣になるんです」

毎回、長い橋田脚本と格闘
連続テレビ小説1回分の放送15分の原稿は、400字詰めの原稿用紙で約20枚。『おしん』1年分(放送回数309回)で、原稿用紙6180枚になる。一冊300ページ程度の単行本に換算するとなんと20冊強。原作・脚本の橋田壽賀子にかかるエネルギーと負担は波大抵のものではない。
江口は、毎週、橋田壽賀子の自宅のある熱海に、脚本を受け取りに行った。その台本は、毎回、長くてほとんどの回で一部をカットしなければならなかったという。
(江口)橋田さんのホン(脚本)ってね、すごく長いんですよ。1本15分じゃ入らないんです。だから、ほとんどの回でカットしているんです。それで橋田さんにも、『ちょっと長いから、原稿用紙10枚分ぐらい削ってください』と話したことあるんですが、橋田さんは『私ね、書きたいことを書かないとダメなんです。後は勝手にしてください』ってね(笑)。だから時間内に収めるために、何ページも切って行くわけです。それが大変なんですよ(笑)。
―― 15分に収めるために、どれぐらいカットしたんですか?
(江口)「その回によって違いますが・・・。まず、台本の段階で切るでしょ。収録してさらに長いから編集段階でまた切るんです」

ヒットを確信した米一俵の贈り物
『おしん』の視聴率は、1年間の平均52.6%、最高62.9%という驚異的なものだったが、第1回の視聴率は32.9%。当時の朝ドラとしては特別に高かったというわけではない。しかし、わずか1か月後には50%を突破する。江口がそのころ、「このドラマはヒットする」と確信したエピソードが2つあったという。
(江口)「ひとつは、隣のスタジオで『御宿かわせみ』(続編=1982~83年放送)というドラマを収録していたんですが、その主役の真野響子さんが『おしん』を収録していた106スタジオのモニターに映った収録映像を見て、泣いていたのを目撃したときです。これで絶対大丈夫だと思いました(笑)」
―― もう一つは?
(江口)「おしんが米一俵で奉公先に売られましたでしょう。そうしたら、新潟から米一俵がNHKに送られてきたんです。『これでおしんを取り返してくれ』ってね。新潟の視聴者の方からです。きっとおしんと同じような苦労をして、今はちゃんと生活出来るようになっている方だと思うんです」
―― ドラマ部に届いたんですか、米一俵が?
(江口)「そうそう。それから他にも、お金が送られてくることもありましたね。さすがに、お金は返しましたが、送っていただいたお米はお気持ちを頂戴してドラマで使う"大根めし"にしました。『ドラマで食べている大根めしはあなたに送っていただいたお米で作っています』って連絡して(笑)。そんなことがあって、多分、ヒットするだろうって。ドラマとして見るんじゃなくてね、現実として視聴者のみなさんは見ていたんですね。自分の生き様と重ね合わせたんですよ」
制作者と役者の情熱が見たいドラマを生む
―― 中国の胡錦涛国家主席が、先日の来日前の会見(2008年5月)で、深い印象を受けた番組として『おしん』を挙げていましたね?
(江口)「作った人間としては嬉しいけれど、25年経っても、まだ『おしん』が取り上げられるのはなんだか寂しいですね」
―― 寂しい?
(江口)「今のドラマに、なにか制作スタッフや役者の情熱が感じられないんです。最初に見たくないと思っていたテレビドラマであっても、制作者や役者が情熱をもって作っていれば、その熱気で自然と見ているんですよね。最近、そういう熱気のあるドラマが昔に比べて少なくなってきていませんかね。制作者が本当に作りたくて作っているのかなという感じで・・・」
―― 江口さんにとって、ドラマとは?
(江口)「ドラマって何かと言ったら、俺の場合はおれの人生だよね」
―― 人生、ですか?
(江口)「やりたくてやっているからさ」
江口浩之(えぐち・ひろゆき)
1937(昭和12)年、神戸市生まれ。1962(昭和37)年NHK入局。大阪局芸能部をへて、東京・ドラマ部へ。手がけた作品に、『ゼンマイじかけの柱時計』、大河ドラマ『花神』『草燃える』、連続テレビ小説『水色の時』『本日は晴天なり』『おしん』などがある。
今回は、大ヒットドラマの舞台裏を、演出家のインタビューで紹介した。
『おしん』の成功の秘訣は、作者、出演者、制作スタッフといった面々がそれぞれの分野で熱い思いを抱き、夢中になり、リアリズムを追求し、それが結集したことでできたのだろう。
さて、7月1日から『第1回NHKアーカイブス検定』が始まる。全問正解した方には、今回ご紹介した『おしん』のスタジオセットを忠実に再現したペーパークラフトをプレゼントする(型紙データをダウンロード)。リアリズムを追求したセットや小道具、当時の制作者や撮影機材なども揃っているのでぜひ挑戦していただきたい。
めざせ!アーカイブス博士!
◇「おしん」制作スタッフ
制作 岡本由紀子
演出 江口浩之 小林平八郎 竹本稔 ほか
デスク 山岸康則
美術 田坂光善 宮井市太郎 増田哲
技術 設楽国雄 白石健二
照明 渡邊恒一 増田栄治
カメラ 後藤 忠 沖中正悦
音声 金光正一 近藤直光 若林政人
VE 福井功一
効果 水野春久 林 幸夫 小林 光
連続テレビ小説『おしん』は、「少女編」全36話と、1年間の放送をまとめた「総集編」全4回を、お近くのNHKの番組公開ライブラリーで見ることができる。
かつてテレビの前で涙した方も、まだ見たことのない方も、おしんの生きざまをご覧いただきたい。












「江口浩之」という名前はオープニングのスタッフロールで見ていたので、お名前だけは存じ上げていましたが、「おぉ~、こういうお顔でしたかぁ~。」(笑)、、って笑っちゃいけないですね、スミマセン。
「浩之」というので、勝手にナインティナインの「矢部浩之」をイメージしていたもので・・・。
以前、内館牧子さんのエッセイか何かで(テレビで発言されたのを聞いたのかなぁ・・)、内館さんが橋田先生の脚本のお手伝いをされていて、「おしん」の資料を整理したり準備したりされていた、っていうのを知ったんですけど、脚本を書くのって、タイヘンな作業なんだなぁ~って思ったものです。
脚本家もタイヘンだけど、今回この「番組ノート」を読んで、美術や時代考証などで、“脚本と格闘”されたのを知り、ドラマを“ながら”で見ちゃ申し訳ないなぁ~って思いました。
(更紗)
投稿日2008年06月29日 09:24