ページの本文へ

  1. トップページ
  2. 青森ミライラボ
  3. りんご栽培 機械化への道 青森ミライラボ・変わる!?りんご産業(後編)

りんご栽培 機械化への道 青森ミライラボ・変わる!?りんご産業(後編)

執筆者吉永智哉(記者)
2022年12月23日 (金)

りんご栽培 機械化への道 青森ミライラボ・変わる!?りんご産業(後編)

青森の未来を考える研究室 「青森ミライラボ」。
前回は、「りんごの新しい栽培方法」についてお伝えしました。
今回は、「機械化」の観点から考えていきたいと思います。

リンゴの栽培は摘果や葉取りなど、人の手による作業が多く機械化が進んでいません。
ただ、生産者の高齢化や担い手不足が進む中では、人の手でなくてもできる作業は機械に任せ、人の作業の負担を軽減することを目指す技術開発が進められています。

月面探査機の技術をりんご園に

りんごを運ぶロボット

ことし10月、弘前市にあるりんご園で実証実験が行われました。
実験に使われたのは、台車型のロボット。
台車にりんごの入ったかごを載せて、りんご園を走っていました。

タミル・ブルームさん

開発しているのは、中東・イスラエル出身のタミル・ブルームさん率いる
宮城県のベンチャー企業です。
ブルームさんは、東北大学の大学院などで月面探査機に使われる技術を学びました。
その間、東北各地を旅をする中で、高齢化や担い手不足など農業が抱える課題に気づいたといいます。

「輝翠TECH」タミル・ブルーム代表  
農業では労働力不足が深刻化している。生産者の方々の身体的負担を軽減するためにも現場の作業にあったロボットを作ろうと考えている。

こうして開発に乗り出したのが、台車型のロボット。
ブルームさんが学んだ月面探査の技術を生かして、
傾斜があったり雑草が生えていたりと、凹凸のあるりんご畑での運用を目指しています。
今回の実験では、収穫されたりんごの入ったかごを
斜面の上にある出荷場所まで運ぶことができるか確認していました。

追従機能のテスト

実験の時はリモートで操作していましたが、ブルームさんたちは、
ロボットが人を追いかける機能なども搭載して、
生産者の負担をさらに軽減したいと考えています。

機械に出来る部分は機械に

りんご収穫作業はさまざまな工程に分かれていて、実証実験が行われたりんご園でも人手の確保に毎年頭を悩ませているといいます。

作業の流れはこうです。

りんごをもぐ作業

このりんご園ではまず、人の手でりんごをもぎ取ったあと、かごに入れます。

かごを回収

そのかごを、別の人が回収し、台車に乗せて、出荷地点に運びます。

トラックに積み込み

そして、さらにかごからコンテナに積み替え、トラックに載せられます。
取材時は10人が手分けてして作業に当たっていました。

ブルームさんたちは、このうち2番目の「りんごのかごを回収する」という作業をロボットに担ってもらおうと考えています。

農園を経営する赤石淳市さんは、興味津々に実証実験を見守っていました。

りんご農園経営 赤石淳市さん 
園地の中を運ぶ作業がすごく楽になる。今はすべて人による作業で、むだではないが効率的とはいえない。機械ができるところはどんどん機械にやらせたい。

ブルームさんは、高齢化が顕著な日本で事業を成功させて、
世界にも打って出たいと考えています。

「輝翠TECH」タミル・ブルーム代表 
日本の生産者の高齢化は、アメリカやほかの国々よりも進んでいる。多くの農家の方々が今後、引退し、耕作が放棄されると回復は難しくなる。島国の日本では、食料安全保障の確保のためにも、人が行う力仕事をロボットが助けるという、より持続的なモデルへの移行が非常に重要だ。将来的には、りんごだけでなく果物全般、野菜の生産者の支援にも取り組みたい。

バイクメーカーも技術開発

ヤマハの工場の看板

担い手不足を補う先端技術。
静岡県に本社があるバイクメーカーでも研究が進んでいます。

コンセプトカー

開発が進められている車両は、
おしゃれな軽トラックのようなデザインです。
特徴的なのは、その操作方法です。
ハンドルを握らなくても
リモコンのボタンを押すだけで
前進や停止ができます。

吉永記者

私も農業を模した試験場で体験しました。
ボタンを押すと車が事前に設定した距離を動いて、停止しました。
どのように使うのか開発担当者に聞くと、
りんごなどの果実を木から収穫して、収穫箱に入れ、またボタンを押すと
次の木まで自動で動くのだといいます。

昇降ありなしの比較

開発チームがこだわるのは効率性。
運転席や荷台が高くなる機能も備え付ける予定で、
高齢の生産者でも簡単に扱えるといいます。

ヤマハ発動機 開発チーム 本田士郎さん 
コンセプトは、運転せずに作業に注力できること。脚立も必要なくこの車だけで高い作業もできるよう設計している。

木の列に沿って動く自動運転機能

このほか、木の列に沿って動く自動運転機能も備わっています。
前面に取り付けられたレーダーを使っていて、
木が列状に規則正しく植えられ機械が入りやすい
「高密植栽培」などの畑を想定しているといいます。

さらに機能を加えることも可能ですが、開発チームでは、あえてシンプルな機能で価格を抑え、担い手不足に悩む生産者への普及を目指したいとしています。

ヤマハ発動機 開発チーム 本田士郎さん 
モビリティとロボティクスという特色を持ったわれわれの技術で、担い手が減り続けている農業の課題について何かできるのではないか。取り扱いも単純な技術によって自動化、省力化をお手伝いしていきたい。

ところで今回紹介した技術。いずれも「運ぶ」、「移動する」という作業を機械に任せようというもので、収穫作業そのものをロボットが担う技術ではありません。国内でも、収穫作業の自動化を目指した研究開発は行われています。取材を試みたのですが、実用化には至っていないのが現状だということで、今回は、人の作業を助ける技術に焦点を当てました。

りんご産業を今後も維持・発展させていくには、「味や品質を守る」と同時に
「効率的な栽培方法に切り替えていくこと」も鍵の1つになるかもしれません。

高齢化・担い手不足が加速する中で、どうすればりんご産業が「青森ブランド」を守りつつ、今後も成長を続けてしていけるのか。
取材を続け、お伝えしていきたいと思います。

 

青森ミライラボの記事一覧

おすすめの記事