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りんごの新しい栽培方法とは? 青森ミライラボ・変わる!?青森のりんご産業(前編)

執筆者吉永智哉(記者)
2022年12月23日 (金)

りんごの新しい栽培方法とは? 青森ミライラボ・変わる!?青森のりんご産業(前編)

人口減少や新型コロナの感染拡大による社会の変化など、青森県が直面する
課題や、その解決のためのヒントを探るシリーズ
「青森の未来を考える研究室 “青森ミライラボ”」。

去年スタートしましたが、前回の放送(2022年4月放送・漁師縁組)から
かなり間隔があいてしまいました。

今回は、青森を語る上で欠かせないりんご産業、そのミライについて
「新しい栽培方法」と「機械化」の観点から考えていきたいと思います。

青森の基幹産業「りんご」が…

青森県が発表しているりんごの販売額は8年連続1000億円超。
別の農業産出額についての統計でも、りんごはおよそ4分の1を占めるなど、
名実ともに青森県の基幹産業です。

青森県内のりんごの栽培面積

一方、収穫されるりんごの栽培面積は、1990年は2万4000ヘクタール近くありましたが、2020年には2万ヘクタールを切る状態に。
この30年で2割近く減っています。背景にあるのは農家の高齢化や担い手不足です。

りんご産業を巡る課題は、栽培面積だけではなく収穫量の維持、農家の所得確保など多岐にわたっています。こうした問題を解決し、りんご産業を未来まで維持して行くにはどうしたらいいのか。

その打開策の一つとして注目されているが、「りんごの新しい栽培方法」です。「高密植栽培(トールスピンドル)」と呼ばれる、イタリア発の栽培方法。
この栽培方法を全面的に取り入れ、新規に栽培を始めようとする企業があると聞き、取材に向かいました。

リンゴ畑の新しい景色

支柱が並ぶりんご畑

晴れていれば岩木山がきれいに見える青森市浪岡地区。
その一角は「普通のりんご畑」とは少し異なる景色となっています。
ちょうど収穫時期の10月下旬に訪れると畑全体に等間隔で支柱が設置されている「高密植栽培」のりんご畑が一面に広がっていました。
整然と木が並び、どちらかというと、長いも畑やワイン用のブドウ畑に近い印象です。

栽培方法

通常のりんごの栽培方法は木の間隔を取り、1本の木を大きく育てます。
青森県内では75%がこの栽培方法です。
一方、高密植栽培は木の間隔が狭いのが特徴です。
面積当たりの木の数は通常の6倍以上。
1本あたりの収穫量は減りますが、本数が多い分、収穫量は増えます。
イタリアから世界に広がっている栽培方法で、国内では長野県で導入が進んでいます。

野澤さん

案内してくれたのは、栽培を手がけている会社の代表、野澤俊介さんです。

果物や野菜の流通を手がける企業と、りんごなどの輸出を手がける企業が
2年前に共同で設立した野澤さんの会社。
栽培面積の低下によって、りんごが仕入れにくくなっているとの危機感から
企業から栽培に乗り出したといいます。

ジャパンアップル 野澤俊介代表 
近年日本全体として農作物を輸出したいという流れがある中で、りんごの栽培面積がどんどん減っているので、生産量もおのずと減ってしまう。日本の品質、味は維持しつつ労力を減らして生産コストを下げて生産することが大きな目標です。

目標100ヘクタール 東京ドーム21個分で生産

収穫量を確保するため、目指す生産規模は100ヘクタール。
野澤さんいわく、一般的なりんご生産者の栽培面積は2~3ヘクタール。
実現すれば、りんご生産者30~50軒分、東京ドーム21個分の広さに達します。

ジャパンアップル 野澤俊介代表 
りんごの生産規模は、農業法人でも10ヘクタール超える規模だと思うので、100ヘクタールという数字は、けたが違うと思っています。4~5年はかかると思うが実現させたい。

航空写真

土地探しで頼りにしているのは、航空写真です。
長年りんごの栽培が行われていない土地などを探しだし、実際に現地を歩いて、栽培に適した土地の確保を進めています。
野澤さんたちが、持ち主に話を聞くと「昔りんご栽培していたが辞めてしまった」という土地が多かったといいます。

工藤さん

りんご農家の工藤徳弘さん(67)もりんご畑の一部を手放した1人です。
亡くなった父親から引き継いだ畑で、ほぼ1人でりんごを作ってきました。
畑を見せてもらいましたが、摘果や葉取り、りんごを回転させる玉回しなど1人で作業を行うのは大変そうでした。
実際、体力的にも資金的にも、すべての畑で栽培を行うことは難しく、手つかずになっていた一部の畑の売却を決めたと言います。

りんご生産者 工藤徳弘さん 
春から全部、ほとんど1人で管理している感じです。もう70近くで年も年だし、若干生産量を減らしていこうと思っています。息子もいるが、将来的に継ぐのかどうか、今の時点ではわかりません。野澤さんたちの企業が生産できていない土地をほしいという感じだったので、それでは譲りましょうということになった。

野澤さんたちがこうして集めた土地は2022年12月の時点で28ヘクタール。
5年から6年後には100ヘクタールに増やし、年間6000トンの収穫を目指しています。

収穫量3倍を目指す

実は、この年間6000トンという収穫目標も挑戦的です。
面積あたりの平均的な収穫量の3倍ほどになるといいます。
高い収穫量のカギになるのが、先ほど紹介した新たな栽培方法「高密植栽培」です。

高密植栽培の中歩く野澤さん

野澤さんによると栽培手法をマニュアル化できるため、経験が少なくても取り組みやすいほか、収穫量当たりのコストが下がるといいます。ただ、苗木が通常より多く必要になるため、初期費用は通常の数倍かかります。

野澤さんたちは、資金調達をしやすい企業経営のメリットを生かして整備を進め、早ければ7年後には初期費用を回収したい考えです。

ジャパンアップル 野澤俊介代表 
今までの作り方だと後継者はなかなか入ってこないです。技術的にも難しいというところがある。誰でもやりやすい環境をつくることが一番で青森のリンゴを維持していくために必要なことだと思っている。日本のリンゴは本当おいしくて評価をされてるんですけど、海外ではなかなか高くて買えない。海外市場でも挑戦していけるようなりんごを作っていきたい。

資金力のある企業が取り組む「高密植栽培」。
青森では広まるのか、試験を行っている「青森県産業技術センターりんご研究所」の後藤聡栽培部長は、次のように指摘しています。

青森県産業技術センター りんご研究所 後藤聡栽培部長 
雪が解ける際に枝が耐えられるかなど、雪国の環境に適しているか試験を行っている。栽培にあう畑、あわない畑があるので園地の立地条件とか、コスト面など経営状態も考えたうえで検討が必要。

この新しい栽培方法だけで、さまざまな課題を一気に解決できるわけではありません。ただ、新たな企業が参入し挑戦を続けるなど、新しい動きにつながっていることも事実です。「高密植栽培」が今後、青森でどのような広がりを見せるのか。企業による大規模化の取り組みは軌道に乗るのか。注目して行きたいと思っています。
さて、後編では、「りんご産業の機械化」についてお伝えします。

 

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