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冬の観光シーズン 青森の温泉郷を襲った異変 実は全国でも?

執筆者森谷日南子(記者)
2023年01月30日 (月)

冬の観光シーズン 青森の温泉郷を襲った異変 実は全国でも?

「申し訳ありませんが、ぬるくて入れません」。

青森県の温泉旅館の店主は電話口で絞り出すように答えました。

源泉の温度が下がり、旅館の温泉に入れないというのです。旅館は休業を余儀なくされ、冬の温泉を楽しみにしていた客への説明に追われています。
新型コロナウイルスの行動制限が解除され全国旅行支援も再開。旅館にとって、いよいよ復活という時に、業者の熱をも冷ます事態になっています。

雪を見ながら露天風呂!

温泉

青森県は入浴施設の数が人口10万人あたり16.95軒で、日本一(2022年6月時点)。その入浴施設の多くが温泉で、車にお風呂セットを常備している人も多いといわれるほど“風呂好き県”なんです。

私も例にもれず、車にお風呂セットを常備、週末は温泉巡りを楽しんでいます。
雪を眺めながらの露天風呂は、雪深い青森で味わえる最高の冬の観光の1つ。
夏のねぶた(弘前ではねぷたですが)だけではなく、冬にも温泉やスキーを目当てに多くの観光客が訪れます。

観光客戻る!期待のタイミングで…

弘前市 嶽温泉郷

そんな温泉郷の1つ、弘前市の嶽温泉郷です。
新型コロナによる行動制限も解除され、全国旅行支援もことし1月10日から再開。さらに海外からの観光客もようやく戻ってくるという、観光施設にとっては待ちに待ったタイミングで異変が起きました。

嶽温泉旅館組合 小嶋庸平 組合長

嶽温泉旅館組合 小嶋庸平 組合長
「(温度は)ぬるいですね、入れないです」。

「熱いお湯が出ない」のです。昨年の年末から急に源泉の温度が低くなってしまいました。

嶽温泉旅館組合 小嶋庸平 組合長
「完全に枯れたかどうか結論づけるのは早いと思うんですが、現状、あまり期待できる温度と量が確保できていません」。

源泉

嶽温泉郷では、6つの旅館やホテルが共同で4本の源泉を利用しています。
そのうち最も温度の高い源泉が、80度からおよそ50度まで下がってしまったのです。
源泉が宿泊施設の浴槽にたどり着くころには38度ほどと、青森では湯冷めをしてしまう温度に。

あつい温泉とぬるい温泉の2種類があります。

小嶋さんが経営する旅館は、あつい温泉とぬるい温泉の2種類が人気を集めていました。
通常、あつい温泉はおよそ44度、ぬるい温泉はおよそ42度ですが、取材した1月11日はあつい温泉で36度、ぬるい温泉で34度といつもより8度も下がってしまっていました。

源泉の湯量も5分の1ほどに

さらに、その源泉の湯量も以前は毎分200リットルほどありましたが、いまは5分の1ほどに落ち込んでしまいました。
このため、嶽温泉郷にある6つの旅館のうち、3つの旅館が休業。
あとの3つの旅館は日帰り入浴のみの営業など、かき入れ時の年末以降、規模を縮小して営業を続けています。

原因不明・破産に追い込まれる旅館も

なぜ今、源泉に異変が起きているのか。
現在使われている源泉は50年ほど前に掘られたものですが、こうしたトラブルは「今回が初めて」だといいます。
温泉旅館組合は、源泉の配管がつまって湯量が減り温度が下がったとみて調べましたが、異変はみられませんでした。
原因は分からぬままです。

雪と温泉郷

これ以上詳しい調査をしようにも、雪深い嶽地域は、源泉がある山奥に行くために大規模な除雪が必要で、春の雪どけを待つしかありません。

嶽温泉旅館組合 小嶋庸平 組合長
「お湯の十分な量と温度が確保できないとなると浴用施設としての営業はほぼ不可能な状況です。春くらいまでは通常の営業ができなくなるかもしれません。今後どうなるか全く予想がつきません」。

山のホテル

源泉の温度低下で、破産に追い込まれる宿泊施設も出てきました。
嶽温泉を代表する創業およそ350年の老舗ホテルが、破産申請を行う方針が明らかに。
施設の設備投資をするなかで新型コロナで経営がいっそう悪化、そこに来ての源泉の温度低下が破産申請を決断した決め手となりました。

実は全国で?どうなる日本の温泉

なぜこうした事態は起きているのか。温泉の研究を行っている中央温泉研究所の大塚晃弘主任研究員に聞きました。

森谷(記者)
なぜ今回、源泉の温度が下がり、湯量が減ったのでしょうか?

中央温泉研究所大塚晃弘 主任研究員
「急激に温度が下がったことから源泉そのもののトラブルではないと思います。地域内で複数の源泉が調子を崩しているのであれば、地域での温泉の過剰採取や気象条件が疑われますが、そうではなく、1源泉だけが温度が低下し湯量が減っているのであれば、一般的には温泉井戸の深部からの温泉湧出が物理的に阻害されているようなこと、つまり温泉が目詰まりしていると推定されます」。

森谷(記者)
今回のような事態は全国で珍しいことなのでしょうか?

中央温泉研究所大塚晃弘 主任研究員
「実は、青森県だけでなく大分県・別府温泉や北海道・ひらふ温泉でも同様の問題が発生しています。別府温泉やひらふ温泉でこのような問題が発生したのは、長い年月をかけて温泉が地域に拡大し、過剰に温泉を取り過ぎた結果、温泉の水位が下がり、温度が下がったことが原因ではないかと考えています」。

嶽温泉と原因は違うと思われるものの、「源泉の温度が下がる」「温泉が出ない」現象は、全国でも起きているようです。そのうえで、大塚さんはこう話します。

中央温泉研究所大塚晃弘 主任研究員
「温泉の井戸は人間が掘削して作ったものですので、どうしても寿命があります。維持していくにはメンテナンスも必要で、温泉の枯渇はどこの温泉地でも発生しえる現象です。全国には1万7千本の源泉がありますので、中には調子を崩している温泉があっても不思議ではありません」。

取材後記

この問題を受けて何度も嶽温泉郷に取材に行きましたが、目立ったお客さんの姿はなく閑散としていました。いつまで休業しなければならないのか、源泉は復活するのか、旅館の店主たちの肩を落とす姿を見ると胸が痛くなりました。
今回の取材で、温泉は当たり前にあるものではない、大切な資源なんだということを痛感しました。温泉は日本の観光の大きな資源で、海外の観光客にも人気です。ただ、その資源は、いつまでも無限に出てくるものではない。嶽温泉の源泉が警鐘を鳴らしているのかもしれません。

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