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イノシシ北進の懸念 現状と対策は?
長谷川薫(記者)
2022年12月27日 (火)
みなさんは、イノシシにどのようなイメージをお持ちでしょうか。
青森県では、なじみのない方も多いかもしれません。
それもそのはず、イノシシは、県内では明治時代に絶滅したとされてきたからです。
しかし、絶滅したはずのイノシシが県内で相次いで目撃され、被害も出始めていることがわかりました。
いったい何が起きているのか、特に目撃の多い県南の地域で取材することにしました。
県内でも被害 対策も進む
まず訪れたのは、ナガイモの生産が盛んな五戸町。
畑を案内してもらうと土が掘り返されている場所がいくつも見られました。
イノシシが鼻を使って掘り返したとみられるといいます。
猟友会男性
近くにはフンも見つかり、イノシシの被害だと思う。こんな被害は今年が初めてのことだ。五戸町は農作物の産地なので、これをやられると農家の人は大変だ。
町内では同様の被害が相次いでいて、罠を設置するなどの対策を始めているものの、これまでのところ目に見える効果は出ていません。
こうした被害は五戸町以外でも広がっています。
県によると、農作物被害は年々増え続け、昨年度の被害額は過去最高の約140万円。
しかし、懸念は食害だけにとどまりません。
養豚業者の間でも、目撃が相次ぐイノシシへの危機感が高まっています。
その理由は、ウイルスの伝染病「豚熱」です。
「豚熱」はブタやイノシシの間で広がります。仮に飼育しているブタが感染してしまうと処分しなければならないからです。
上十三地域の養豚場では、すべてのブタにワクチン接種を行ったほか、柵も導入していました。
柵は、イノシシが掘り返すことができないよう地面まで覆う特殊な形状になっています。
しかし、目撃が相次ぐ現状に不安は尽きないといいます。
生産者
この地域でもイノシシの目撃情報がある。だんだん北上してきているという恐怖感があり、対策をしても防げるか不安だ。
イノシシがなぜ、青森に??
なぜ、最近になって青森県でイノシシが目撃されているのか。
東北地方で捕獲されたイノシシの数を調べると、南ほど、数が多いことがわかりました。
その理由を解き明かすべく、岩手県の森林総合研究所東北支所を訪ねました。
イノシシ研究にあたっている大西尚樹さんは、一度絶滅した東北地方のイノシシが、南から北上を続けていると指摘します。
大西尚樹さん
東北地方のイノシシは、狩猟や当時流行したとみられる豚熱の影響で絶滅した。しかし、近年は狩猟の機会も減り、もとの状態に回復している状況だ。個体が増えて手狭になってきて、1個体あたりが得られるエサの量などを確保しやすくするため、いいところを求めて広がっている。
大西さんが作成したのが、目撃や捕獲情報などの様々なデータを元にしたイノシシの将来的な出没予測マップ。
赤が濃いほど出没率が高いことを示しています。
三八上北の地図を見せてもらうと、平野部でも出没率が高くなる可能性があることがわかります。
大西尚樹さん
これから5年後、10年後と、確実に頭数が一気に増える段階に入ってくる。イノシシの数を抑えるためには、目撃頭数が限られている今がラストチャンスで、対策を本格化する必要がある。
青森は将来どうなる
対策を行わなければ、青森はどうなってしまうのか。
すでに頭数が増えている岩手県の中でも、特に大きい被害が出ているという岩手県雫石町を訪れました。
雫石町に入ると、大きなイノシシに遭遇。
民家のすぐ近くでも、群れが出没しました。
イノシシを初めて見かけた私(=記者)は、その大きさや迫力に若干恐怖を感じました。
雫石町では、2016年にイノシシを捕獲して以降、その数は増え続け、イノシシを群れで見かけることも珍しくないといいます。
どんな対策が
被害も深刻です。その多くを占めるのがイネです。
イノシシが直接食べる「食害」だけではなく、イノシシが体についた寄生虫を払うために田んぼに入ってしまうのです。
イネが踏み倒されるほか、獣くさい匂いが付くので商品になりません。
岩手県全体でも、イネの被害を中心に農作物被害が右肩上がりになっています。
そこで、雫石町が力を入れているのが、電気柵の設置です。
張り巡らされた柵には電気が流れていて、イノシシが鼻で触れると刺激を感じるようになっています。
町では、多くの農場で電気柵の設置を進めていて、被害を抑えることができるようになってきたといいます。
町役場担当者
イノシシは爆発的に増えてしまう生き物なので、一度増加傾向になると、減らすことが難しくなる。こうした電気柵で農作物を守るという対策を普及していきたい。
一方、先ほどの大西さんは、目撃頭数の限られている青森県では、罠を設置するなどして捕獲を強化すれば、まだ、増加を抑えることができるのではないかと指摘しています。
八戸市でも、今年10月、農業関係者たちを対象にした罠の設置の講習会が開かれるなど、本格的な対策に向けた動きも出てきています。
青森でも、かつては私たちと共存していたイノシシ。
しかし、今後増えると、食害や豚熱、それに県内でも生産が盛んなコメの被害など、広い範囲で被害のリスクに向き合っていかなくてはなりません。まずは、目撃頭数が少ない今のうちに手を打っていくことが求められています。