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漁獲不振に燃料高騰...救世主は〝根魚〟?

執筆者平岡千沙(記者)
2022年11月11日 (金)

漁獲不振に燃料高騰...救世主は〝根魚〟?

ホタテにマグロ、イカにヒラメ…。

青森に友達が観光に来たら、私が必ずおすすめするのが
どんぶりに好きなお刺身を選んでのせる“のっけ丼”です。

のっけ丼

日本海、陸奥湾、太平洋と三方を海に囲まれ、海洋資源が豊富な青森県。
漁業は青森の大事な産業の一つです。

ただ、ここ数年、温暖化の影響などで漁獲量は大幅に落ち込み、
去年の漁獲量は統計開始以来最低のおよそ14万4610トン。

ピークだった1988年の84万1511トンと比べると2割以下です。
燃料費の高騰によって、近年さらに状況は厳しくなっています。

大好きな「のっけ丼」は食べ続けられるのか。取材を進めました。

漁業取材 ヒントは?

ただ、りんご取材は詳しいものの漁業取材はとっかかりがない…。

どうしようかと考えていると、釣り好きの先輩記者から
「県内で“マゾイ”という魚に注目が集まっているらしい」とアドバイスをもらいました。

釣り好きの先輩記者

「マゾイ!?」初めて聞く魚です。

まずは取材より、実際に食べるところから!

さっそく青森市内の日本料理店に足を運びました。

青森市内の日本料理店

店主が出してくれたのは、「マゾイ」のお刺身。

食べてみましたが、こりこりとした食感に磯の香りが広がって上品な味!

何度も口に運んでしまうほどのおいしさです。

「マゾイ」料理

店主いわく、「マゾイ」は、煮魚にしても焼き魚にしてもおいしいし、
特に冬場の「マゾイ」は身が締まって最高だとか。

今度「のっけ丼」にのっけてみよう…違う、
なぜこの「マゾイ」が注目を集めているのか…。

現場取材に向かいます。

落ち込むイカの町に…

向かったのは、県北西部の鰺ヶ沢町です。

日本海に面し、漁業が盛んなこの町では、天日干しにしたイカを焼いて出す
通称「焼きイカ通り」が観光名所。

ぶさいくだけどかわいいと人気を集めたわさおが飼われていたのも焼きイカ店でした。

県北西部の鰺ヶ沢町

かつては、全国各地から漁船が来るほどイカがとれていましたが、
去年の町のイカの漁獲量は30年ほど前のわずか4%にまで落ち込んでいます。

鯵ヶ沢町漁協の担当者
「スルメイカもここ10年くらい漁獲量が減ってしまい10分の1くらいとか。夏になると水温が高すぎて、イカが生息できないような水温なんじゃないか。(中国などの)乱獲の影響も少なからず影響はあるのかなと」。

さらに、ウクライナ侵攻などによる燃料の高騰も追い打ちをかけています。

鯵ヶ沢町漁協の担当者
「水揚げが上がらないことで漁業を続けていけなくなる。となると町から離れて出稼ぎに行く人もいると思うので町から離れていく」。

町の未来を揺るがす事態をどうにかして打開できないか。

そこで漁協が着目したのが、「マゾイ」だったのです。

マゾイ

「マゾイ」は、正式には「キツネメバル」という名前の
「フサカサゴ科」の魚です。

稚魚を放流した場所周辺の岩場にとどまり続ける習性があるため、
海を移動する回遊性のイカやマグロを狙うよりも燃料費が抑えられます。

稚魚を放流した場所周辺の岩場にとどまり続ける習性がある

稚魚を放流するだけなので、施設の整備費用などがかからず、
養殖に比べて費用が抑えられます。

こうしたメリットに魅力を感じ、去年から稚魚の放流を始めました。

鯵ヶ沢町漁協の担当者

稚魚を放流して3年後に、水揚げ出来るという「マゾイ」。

本格的な水揚げはまだですが、鰺ヶ沢町の漁協は今より2倍の「マゾイ」がとれるように、来年以降購入量を増やす方針です。

漁協の担当者は、漁業者の収入増加に加えて、釣り客人気も高い魚の漁場として街の賑わいにつながることも期待しています。

 

鯵ヶ沢町漁協の担当者
「ほかの魚種よりは経費がかからず漁獲量も見込める。マゾイが主要な魚種になれば、鰺ヶ沢の町の活性化にもなる。おいしい魚であれば、自然と観光に来る人もいるのかなと。それによって町が潤う。漁業も景気もよくなる。そういうことがあればなと」。

高まる県内の「マゾイ」人気

この「マゾイ」、最近購入に踏み切ったのは鰺ヶ沢町の漁協だけではないんだとか。

県内の漁協に様々な稚魚を販売する県栽培漁業振興協会によると、「大間まぐろ」で知られる大間町の漁協など、年々稚魚を購入する漁協が増えていると言います。

稚魚たちは6センチほど

販売前の稚魚たちは6センチほどで大きな目が愛くるしく、
ずっと見ていられました。

このかわいい魚が将来おいしくなって、
なおかつ漁業者の希望の星になっているだなんて…。
大きく育つんだよ。

販売前の稚魚たち

海水温の上昇や燃料費高騰など、年々環境が厳しくなるなか、
青森の漁業もそれに対応すべく、変化しています。

いつか、私の「のっけ丼」のラインナップが変わる日が来るかもしれません。

平岡千沙

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