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しなやかに変革に挑む「商業高校」

執筆者佐藤裕太(記者)
2022年10月24日 (月)

しなやかに変革に挑む「商業高校」

商業高校が変わり始めている

今回の取材を始めるきっかけは、私がまだ青森に来る前、愛知県で教育を担当していたときのことです。
8月1日の青森着任の数日前、猛暑の名古屋で、私は愛知県の県立高校の再編について議論する会議を取材していました。
会議のあと、これまでお世話になった関係者に離任のあいさつ。
その1人、県立愛知商業高校の校長 川口宗泰先生から
「青森で秋に『全国産業教育フェア』があるからぜひよろしく」
と声をかけられたのです。

「商い」の魅力を伝える

産業フェア

10月15日からの2日間、青森市で開かれた「全国産業教育フェア」。
商業をはじめ工業や農業など、産業を学ぶ専門学科を持つ高校の関係者が全国から集まりました。
取材に行くと「いらっしゃいませ!」「ありがとうございます」。
会場の入り口に、ひときわにぎわっているブースがありました。

「わくわくこども商人(あきんど)」。

青森商業高校の三上雅也校長が企画した「わくわくこども商人(あきんど)」。
客を呼び込んだり、お金の受け渡しをしたりと、小学生が「商い」を体験。
サポートをしていたのは県立青森商業高校の生徒たちでした。

三上雅也校長

県立青森商業高校 三上雅也校長
「商業で学んだことをもとに、『高校生が小学生に商業の魅力を伝える』ということで企画しました」。

全国的な「商業離れ」

青森商業高校は明治35年創立

青森商業高校は明治35年創立。10月には120周年記念式典が行われました。簿記やマーケティングなど、「商業」の授業が1週間の授業の3割以上を占めます。
しかし、この歴史ある伝統校でも、この春の入試の倍率は0.8倍。
県立高校全体でも定員割れが起きていますが、学校はひときわ危機感を抱いています。

県立青森商業高校 三上雅也校長
「『産業教育』というイメージは、地域の方はあまり持っていない。やはり産業教育の魅力をもっともっと知ってもらう、そういう努力はしてきていますけれども、浸透していない」。

商業高校の人気低迷は、青森だけの問題ではありません。

全国産業教育振興大会

今回のフェアに合わせて青森市内のホテルで開かれた「全国産業教育振興大会」。全国の高校の校長などおよそ70人が参加し、産業教育の今後について課題を共有しました。

「グローバル世界を避けて通ることはできません」。
「産業構造も大きく変化して競争も激化してきている」。

直面する課題として相次いで指摘されたのが、「産業構造の変化」です。
情報技術の発達や新型コロナによるリモートワークの普及など、時代の大きな変化にどう対応するのか、課題に直面している現状が共有されました。

愛知県立愛知商業高校の川口宗泰校長

今回の取材のきっかけになった、愛知県立愛知商業高校の川口宗泰校長の姿も、青森市の会場にありました。
愛知商業高校も、創立から100年を超える名門ですが、去年春に入学した生徒は、40人以上の「定員割れ」。
自動車製造をはじめ「産業県」として知られる愛知県でも、産業構造の変化などを背景に「商業離れ」が起きています。

川口宗泰校長

県立愛知商業高校 川口宗泰校長
「高卒で就職する子どもたちが少しずつ少なくなっていることもありますし、高校を選ぶときにいわゆる『普通科志向』も一部にはあると思います」。

企業のM&Aや商品開発など 実践的学びへ

川口校長は、去年の着任以来、県立の商業高校全体の改革の旗振り役として、こうした状況を打破しようと大胆な取り組みを進めています。

川口校長は、大胆な取り組みを進めています。

商業高校の特徴である簿記の授業では、タブレット端末を駆使して、企業のM&A=買収や合併を取り上げるなど、簿記の基礎を生かした実践的な学びを展開しています。

さらに、私服での登校を認める「オフィスカジュアルデー」など、商業高校に対するイメージを変えることにも取り組んでいます。

私服での登校を認める「オフィスカジュアルデー」

愛知商業高校 川口宗泰校長
「AIとかビッグデータの活用とか、新たなものがどんどん出てきているで、『しなやかに』対応しながら、しっかりと勉強してやっていきたい」。

青森県のホタテを使ったパスタソース

青森商業高校も、新たな取り組みに挑戦しています。
今回のフェアで販売した、青森県のホタテを使ったパスタソース。
その名も、「たんげめぇ!美味醤醤」。
3年生の授業の中で台湾の高校と共同で商品開発を進めました。
最近では台湾の企業との商談なども行っています。

片川秀さん

青森商業高校3年生 片川秀さん
「今までわからなかった世界経済の回り方とか、普通ではわからないところまでわかります。こういうすばらしい経験は高校のうちにできる機会は少ないと思いますが、商業高校に入ればこういう機会がたくさんあります」。

青森商業高校は、県教育委員会から商業高校改革の「拠点校」に指定され、県立の商業高校全体の教育内容の充実を先導します。

青森商業高校 三上雅也校長
「グローバルな視点でのビジネス感覚を持った人材育成ということで、先進的な取り組みに、まず本校が積極的に取り組み、商業のよさを知ってもらい、発信できるような取り組みを拠点校としてやっていかなければいけないと思っています」。

編集後記

実際に取材で見た光景は、「簿記」を使いこなして財務諸表を読み解いて、誰もが知る大企業のM&Aについて分析したり、マーケティングの基礎を生かして商品開発や商談に臨んだりと、まさに実践の現場でした。
教育現場は今、「個別最適な学び」「探究学習」へと転換が進んでいます。
実は、商業をはじめ産業教育の現場は、これまでもそうした学びを実践してきました。
社会の変化の荒波にもまれながらも、「しなやか」に乗り越えようとする動きが現場から生まれていることに、今後への大きな希望を感じました。

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