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農業用のマッチングアプリって!? 日本一のりんごを守れるか?
森谷日南子(記者)
2022年07月22日 (金)
“マッチングアプリ”といえば「スマホでパートナーを探せる」ものだと思っていらっしゃる方が多いと思います。
でも、りんごの生産量が日本一の弘前市が導入した“マッチングアプリ”はちょっと違います。探すのは“人生のパートナー”ではなく“農作業の担い手”なんです。
去年11月、私は青森局から弘前支局へ転勤しました。
弘前に赴任してからたくさんのりんご農家さんを取材させていただいたのですが、皆さんから必ずといっていいほど聞いたのは「担い手がいない」という話でした。
りんごの生産量日本一を誇る弘前市ですが、高齢化などから農業の担い手不足が深刻化しているのです。
実際、弘前市が市内の農家を対象に3年前に実施した調査では、約8割がすでに人手不足を感じているか、今後の人手不足を懸念していると回答しているんです。
こんな状況を打開しようと、去年10月に市が導入したのが農作業のアルバイトを紹介するマッチングアプリです。
果たしてこのアプリ、農業の担い手不足解消につながるのでしょうか。
私はアプリをきっかけに農作業のアルバイトを始めた女性を取材しました。
アプリがきっかけ 20代女性が農業に
弘前市に住む三浦朋佳さん(25)はラーメン店でのアルバイトを3年間続けています。店で働くことができるのは週に4回ほどで、合間に気軽にできる仕事を探していたといいます。
そんなときに見つけたのが弘前市が導入した“マッチングアプリ”でした。
祖母はりんご農家の三浦さんですが、本格的な農作業の経験はありません。
それでも農業に興味があったことから、思い切って応募してみることにしました。
三浦朋佳さん
空いた時間にアルバイトができるというのが魅力的でした。掛け持ちがしやすいし、自分の都合によって働けるところがいいと思います。
三浦さんはこのアプリを利用して週に3~4回、りんご畑で働くようになりました。
農業マッチングアプリ どうやって使う?
スマートフォンを使って農作業のアルバイトが簡単に探せるというマッチングアプリ。どうやって使うのか私も体験して確認してみました。
まず、アプリをダウンロードして自分の名前や連絡先などを登録します。
そして、カレンダーから働きたい日付を選択。
仕事の内容や日当などを確認して応募し農家が受け入れれば“マッチング”成立です。
森谷記者
アプリに掲載されるのはすべて1日単位の仕事です。また、履歴書や証明写真は必要ないため手軽に仕事を見つけることができるという印象でした。
アプリの運用が始まった去年10月から8か月間で若者を中心とした登録者は約600人に増え、マッチングが成立した割合は実に90%に上っているんです。
アプリを運用する市の担当者にあらためて聞いてみると、多くの若者に使ってもらおうと気軽に利用できるアプリを導入したのだと話していました。
アプリの運用を担当 弘前市 齋藤蓮 主事
利用者の約半分が20代の若者です。
1日単位で働けるという短期の仕事で募集していることが、若者のニーズに合っているのではないかと思います。
りんご農家も歓迎
こうして1日単位の農作業をこなす若者たちを農家も歓迎しています。
三浦さんを受け入れたのは弘前市内で10年以上にわたってりんご栽培を続けている成田和男さん(47)です。
私が取材にうかがった6月は、りんごの実を大きく育てるため余分な実を摘み取る「実すぐり」の作業で大忙しでした。
人手はいくらあっても足りませんが、アプリのおかげで忙しいときでも働き手を確保できるようになったといいます。
りんご農家 成田和男さん
これまでは、いつも雇用している人たちが“きょうはちょっと用事が…”とかと言って、働きに来られなくなることが多くて、予定が組めなくなることもありました。
このアプリは確実なので、スケジュールが組みやすいというのがいいところです。
一方の三浦さんはというと、りんご畑で働くようになったことをきっかけに、いっそう農業への関心が高まったといいます。
これからもこのアルバイトを続けてりんご栽培の知識を身につけ、ゆくゆくは就農することも考え始めているそうです。
三浦朋佳さん
ここに来ていろいろ教えてもらって、今後はりんごをつくることを目標に働きたいと思う。
働き手に来てもらいたい農家と働きたい人を“マッチング”するアプリ。
人手不足の農業の現場に変化をもたらしていました。
取材を終えて
成田さんのりんご畑で取材をしていると、三浦さんと成田さんは、常におしゃべりしながら作業をしていて、楽しみながらやっていることが伝わってきました。
弘前市は市の職員がりんご農家を手伝うことを去年から副業として認めているほか、初心者がりんごの栽培方法を学ぶ研修会を定期的に開くなどしていて、あの手この手で農業の担い手不足を解消しようとしています。
三浦さんもこういった研修会に参加して、本格的にりんご栽培について学び、祖母が営む平川市のりんご園を将来的に引き継ぎたいと考えています。
こうした取り組みが日本一のりんご栽培の現場にどんな影響をもたらすのか、これからも取材していきたいと思います。