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青森から取材したトンガ
細川高頌(記者)
2022年02月01日 (火)

「トンガの被害が大変なことになっている」
トンガの海底火山で大規模な噴火が起きてからおよそ半日後の1月16日未明。アメリカにいるトンガ人の友人から電話がありました。
いつも明るいその友人は、トンガにいる家族の身を案じ、ひどく不安そうな様子です。
私もトンガにいる友人たちにSNSで連絡を試みましたが、いつもはすぐに返事がくるのに既読にもなりません。
青年海外協力隊の隊員としてトンガで活動した経験のある私は、現地で何が起きているのか知りたいと思い、取材を始めました。
連絡が途絶した島
私は大学3年生だった2015年に学校を休学し、青年海外協力隊の隊員として11か月間、トンガに派遣されました。
首都ヌクアロファにあった民家の離れに寝泊まりさせてもらいながら、生活習慣の改善などを呼びかける活動を行いました。
トンガの人たちは学生だった私をあたたかく見守り、休みの日には一緒に釣りに行ったり、私が作った手巻き寿司を大喜びで食べてくれたりしました。
また、困りごとがあればすぐに助けてくれたことを覚えています。
トンガは日本から南におよそ8000キロ離れた人口10万あまりの島国です。
1月15日の大規模噴火では青森県内でも最大60センチの津波が到達しました。
噴火を起こした海底火山はヌクアロファから北に65キロほど離れた場所にあります。
噴火で通信用の海底ケーブルが損傷しましたが、再び噴火のおそれがあるため復旧作業が進まず、通信が不安定な状況が続いているということです。
“オレンジで渇きしのぐ”
実は青森県にも、トンガ出身の人たちが暮らしています。
このうち青森山田高校では、4年前からトンガ人の留学生を受け入れています。
現地の状況がなかなか分からないなか、トンガから遠く離れた日本の地で不安な思いを募らせているのではないか。そう思った私は、直接話を聞きに行くことにしました。
出迎えてくれたのは、ラグビー部で活躍している2年生のコロ・ソナタネさんと、フィリモネ・サイアさんです。
コロさんは噴火が起きたとき、ヌクアロファ近郊に暮らす家族と電話していました。
コロ・ソナタネさん
「噴火があったとき、電話の向こうから叫び声や逃げる声が聞こえてとても心配だった」。
その後家族と連絡がとれなくなり、国際電話で両親と会話ができたのは、噴火から10日近くたった1月24日のことでした。コロさんの家族は、水や食料が足りない現状を訴えました。
「水が不足しているため、隣の家からもらったオレンジでジュースを作って飲んでいる。家族や親せきで食べる分に育てていたイモの畑も火山灰や津波の被害を受けて食料も不足している」。
また、フィリモネさんの家族も、水や食料の支援が必要だと話しました。
フィリモネさんの家族
「生きるために1番大切な水や食料が不足していることに不安を感じている。より多くの支援を必要としている」
今も噴火の影響で、水や食料が不足していると訴えるトンガの人たち。
それでも、コロさんは久しぶりに両親の声を聞くことができて、安どの表情を浮かべていました。
コロ・ソナタネさん
「ママとパパの声が聞けて安心しました。トンガに戻って家族と直接会いたいです」
火山灰の脅威
1月下旬には私も少しずつ現地の人たちと連絡がとれるようになりました。
その際、全員が口をそろえていたのが「水と食料が不足している」ということでした。
なぜ現地でそこまで水や食料が深刻な問題になっているのか。
トンガでシニアボランティアとして活動した経験のある2人に話を聞きました。
現地の水道局で水道設備の指導などを行っていた中村幸生さんは、トンガでは多くの家庭が雨水を飲み水として使用しているため、火山灰に弱いと指摘しています。
中村幸生さん
「トンガでは多くの家庭が雨水をレインタンクと呼ばれる大きなタンクにためて生活しています。このタンクが火山灰で汚染された場合、飲み水の確保が喫緊の課題になる」。
また、生活用水は水道や井戸水を使っていますが、どちらも十分なろ過設備がないといいます。
中村幸生さん
「例えば首都のヌクアロファに通っている水道は、地下水と海水が混ざった水を滅菌して各家庭に給水している。その途中にろ過設備はなく、噴火によって酸性雨などが降ると水道水も飲み水とするのは難しい。水道が整備されていない地域では主に井戸水をくみ上げているが、こちらもろ過設備などがないので、汚染されていた場合は飲み水として使えない」。
こちらは、私がトンガで生活していた家の大家から、1月25日に届いたレインタンクの写真です。全体が火山灰に覆われていることが写真からも分かります。
では、食べ物はどうでしょうか。
現地の農業省で、農作物の栽培指導などを行っていた吉原久雄さんは、トンガで主食とされているイモ類が被害を受けた場合、長期的な支援が必要になると指摘しています。
吉原久雄さん
「トンガではほとんどの人が、家族や親せきで自分たちが食べる分のイモを育て、自給自足している。今回の津波や火山灰でイモ類にも大きな被害が出た可能性がある。その場合、現地でよく食べられているキャッサバ芋は植えてから収穫まで1年近くかかるし、ほかのイモ類も植えてから収穫まで3か月はかかる。その間、食料は援助に頼らざるを得なくなる」
青森からできることは?
日本や青森からできる支援は何があるのでしょうか。
在日トンガ王国大使館は、物資については、現地で必要なものの確認が終わるまでは支援を控えるよう呼びかけていて、まずは義援金への協力を訴えています。
主な振込先は次の通りです。
【在日トンガ王国大使館】
金融機関:三菱UFJ銀行 新橋支店
預金種別:普通預金
口座番号:3514915
口座名義:トンガ王国大使館 特命全権大使 テヴィタ・スカ・マンギシ
【NPO法人日本トンガ友好協会】
金融機関:群馬銀行熊谷支店
預金種別:普通預金
口座番号:1062533
口座名義:特定非営利活動法人 日本トンガ友好協会
【日本赤十字社】
ゆうちょ銀行
口座番号:00110-2-5606
口座名義:日本赤十字社
三井住友銀行:すずらん支店普通 2787779
三菱UFJ銀行:やまびこ支店普通 2105782
みずほ銀行:クヌギ支店 普通 0623463
口座名義:日本赤十字社
これまで日本では多くのトンガ人がラグビー選手などとして活躍してきました。またトンガでも、日本語やそろばんが授業に取り入れられるなど、日本とトンガは決して遠い国ではありません。
11年前の東日本大震災では、トンガの人たちから「トンガより愛をこめて」というメッセージとともに里芋や義援金が届けられるなどの支援がありました。
ぜひ多くの方に支援の輪を広げてもらいたいです。