龍の歯医者

インタビュー

監督 鶴巻和哉

「龍の歯医者」キャスト&スタッフインタビューの第四弾は、作品の監督をつとめる鶴巻和哉さんが登場!
『フリクリ』『トップをねらえ2!』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどで知られる鶴巻さんが「龍の歯医者」を手がけるきっかけとなったのは、2014年秋の「日本アニメ(ーター)見本市」での原作・舞城王太郎さんとの出会い。
そこで公開された短編「龍の歯医者」に新たなストーリーやキャラクターたちが加わり、今回の90分サイズの新作大型アニメーションが生まれたのです。
2月18日に放送された前編をご覧になり、ファンタジーあふれる龍の上の世界や、歯医者たちの描写に驚いた方も多かったのではないでしょうか・・・?鶴巻監督に創作の舞台裏や後編にもつながる見どころをうかがいました!

-「日本アニメ(ーター)見本市」で公開された「龍の歯医者」は、7分ほどの短編でした。それが、90分サイズの作品になるほどの壮大なストーリー背景があったとは驚きです。「見本市」のときから、将来的な長編化を見越していたのでしょうか?

舞城さんにはあったのかもしれませんが、「見本市」のときは、僕はまったく知らなかったです。「見本市」の短編は、その時点では、あそこで描かれたことが全てでした。「龍の歯医者」が具体的にどんな仕事をするのかすら、短編の時にはわからなかったんですよ。今回の長編作品でも取り上げますが、「見本市」の短編は、龍の歯医者になる1日目のシーンにすぎなくて。
この前後編のプロットを去年、舞城さんからいただいて、「国を守ってくれる人知を超えた力を持った巨大な龍がいて、その龍の唯一の弱点が虫歯菌と呼ばれる異形の生物たちである。そこで、歯医者たちは、龍の歯を守るために虫歯菌と戦う日々を送っている」という設定が初めてわかったんです(笑)。
「そっかそっか、歯医者ってこういう仕事をしているのか」って、そのとき驚きつつも納得しました。

-キャラクターたちも、野ノ子と悟堂は描かれていたものの、柴名や宗達、修三といった先輩歯医者たち、そして「黄泉帰り」であらわれたベル、そして最後思わせぶりに登場したブランコとか、多彩です。

そうですね。キャラクターに関しては、長編化にあたっていろいろ性格なども見えてきたので、デザインも含めて一新してみようかと思いました。

でも野ノ子とか一部若い女性の歯医者もいるんですが、あらためて見ると今回の作品は中年のおっさんがたくさん出てきてるなと(笑)。

とくに若いアニメーターたちはカワイイ女の子とか、かっこいい男の子を描く分には慣れているし上手いんですが、おっさんばかり描くのにはちょっと苦労しているかもしれませんね。

-歯医者の仕事や暮らしについても、「こんなところで食事してるんだ」とか「こんな道具を使うんだ」とか、いろいろ設定が面白いですね。

龍の歯医者たちが住んでいる建物は、龍のアゴの下にぶら下がっているんです。舞城さんのアイデアなんですが、僕は当初、龍の背中には巨大な人口建造物が乗っているので、そこに寝泊まりする施設があるのだろうと考えていたんです。船の甲板っぽい施設なので、建物を配置するにも楽なんです。

それで、最初は「すいません背中の上にさせてください」と申し出ました。その後で、いろいろ考えているうちにアゴの下でも面白いのかなーと思って。僕の知り合いに建築をやる方がいるので、自分が考えたアイデアを持って行って「こういうのできますかね」って聞いてみたら、面白いんじゃないですかって。出来るとは言われなかったけれども(笑) だったらやってみようかな、と。

木造のトラスで組んだ独立した土台ユニットがたくさんぶら下がっていて、その上にそれぞれ小屋が乗ってる構造。電車の連結部のようにフレキシブルに繋がっていて、龍が動いて大きく揺れたとしても全体が動いてゆがみを逃がすみたいな建造物です。そんな建物だったら、龍のアゴの下にも住めるのかなーと思って、デザインしてみた感じです。

-虫歯菌についても教えてください。ヒカリ虫にヤジリ虫、シセキ虫、そしてかなりかなり手ごわそうな天狗虫・・・。いろんな種類の虫歯菌の構想は、やはり大変でしたか?

虫歯菌の描き方は結構困ったというか…。歯医者の道具は、人間の歯の治療などを参考にできるところもあるんですけど・・・。
でも、虫歯菌はなかなかうまくフィットしないと思っていました。幅が広いんですよ。植物みたいなのもいるし、動物みたいなのもいるし、ほんとに細菌みたいなものもいるし、明らかにこの世のものではないものもいて。アニメーターたちに動きをどういうふうに説明したらいいのかなって、ちょっと困りましたね。

-ベルをワシワシしちゃうカブリ虫とか、コミカルなやつもいましたね(笑)。

かわいらしい要素は入れたいと思っていて、スタッフには「一言で説明しちゃうと妖怪です」って話したんです。妖怪にはいろいろいて、中にはかわいいやつもいるじゃないですか? たとえば、ダンゴムシ…妖怪じゃなくて虫ですが、気持ち悪いって人もいるけど、見ているとかわいさもあって。そういう部分を出したいと思っていました。気持ち悪さとか、触りたくないって気持ちはもちろん必要なんだけれども、それと同時に可愛げもある感じで描けないかな?という話をデザイナーやアニメーターにはしてきました。

- 戦場で命を落としたベルが「黄泉帰り」であらわれたり、実は野ノ子たち歯医者は、自分たちの「キタルキワ」という死の瞬間を知っていたり、と「生と死」をテーマに含んでいる作品です。ふんわりとした背景は、ちょっと「生と死の合間」を感じさせますね。

空の描写であったり、龍の歯の上であったり、「淡い背景」というのは、物語のストーリー性をふまえて確信があってやっています。例えばカラーで作っている「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズだと背景を緻密に描き込むんです。なので(今回は)「ヱヴァ」ではできないようなスタイル。僕としてはそういう美術も好きなので、結構、挑戦ではありますけど。

余白が多めで、最近のディテールが多いアニメーションを見ている人からすると物足りないと写るかもしれませんが、アニメーションはあくまで「絵」として描いているわけで「どこにピントを当てるか」、「なにを描かないか」というのは大事な所です。
最近のアニメではあまり見なくなってしまった美術のスタイルではあるんですが、現在の新しい絵と合わせてもいけるんじゃないかなーと思っていてチャレンジしています。

-まもなく「龍の歯医者」も後編がオンエアとなります。前編も冒頭いきなり、迫力ある海戦が繰り広げられ、見ている人たちの度肝を抜きました。龍も、歯医者も、登場しないという意外な演出でした。

前編のアバンタイトルは思い入れのあるシーンで、昔からやりたかったことの1つですね。戦艦同士が戦うシーン。子供の頃から「戦記物」が好きで、「宇宙戦艦ヤマト」ブームもあって、自分で考えた戦艦の透視図を「ここは艦長が寝る部屋で、ここは一般の兵士が寝る部屋」みたいに描いていたんですよ(笑)。もともと、そういうのが好きで絵を描き始めてるところがあるから、いつかやってみたいと思っていました。

まだ詳しくは言えませんが、後編のアバンタイトルも「サプライズ」があると思います。後編の冒頭は舞城さんの脚本にはなかったパートなんですが、そのシーンがあると「龍の歯医者」の世界観がすごく広がるなーと思っていて、みなさんの反応が楽しみです。

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