コラム・インタビュー

氷川竜介のアニメ100年史氷川竜介のアニメ100年史

第5回(1997~現在)
ステータスの変化と
デジタルによる表現拡張

2017年2月24日

  • 『青の6号』(1998年)
    ©1998小澤さとる/バンダイビジュアル・EMI Music Japan

デジタルによる社会の激変

20世紀末、観客層の拡大とグローバル化によって、アニメのステータスは大きく変わりました。1997年度から新設された文化庁メディア芸術祭の第1回は『もののけ姫』『新世紀エヴァンゲリオン』が受賞し、国家レベルでアニメの認知が高まり、アナログ時代に迎えた成熟の頂点が訪れます。
こうして起きた数々の変化は、以下のように整理されるでしょう。「観客層の一般化」「表現力と内容の高度化」「文化芸術的な受容」「海外への拡がり」。さらに同時期、パソコン、携帯電話、インターネットが普及して生活の激変が始まり、アニメの世界でもデジタルの影響が表現を進化させます。
テレビアニメでは『ゲゲゲの鬼太郎』の第64話(1997年4月)からデジタル化がスタートし、OVA『青の6号』(1998年)では人物を手描き、メカ戦闘を3DCGで表現する「ハイブリッド方式」を採用。絵の具、フィルム、撮影台など職人的なアナログ技術が必要だった職種が、次々とコンピューターに置き換わりました。環境構築が容易となり、ゲーム業界からのリソース流入があるなど、複数の条件が整って制作会社の独立再編が進み、新たな量産時代が始まります。
光ディスクの大容量メディアとして台頭したDVDはデジタル化されたアニメ作品と親和性が高く、「アニメ作品を購入する」というニーズを喚起しました。「エヴァ」の再放送を契機にショッピング用テレビ深夜枠を利用し、製作委員会を組織してパッケージ販売を主目的とする「深夜アニメ」が隆盛になる機運とも合流。和製英語のまま「ANIME」と呼ばれたDVD商品が日本のイメージを投影した「ハイテク製品」として世界中で受容され、輸出の収益も計算にいれることで、アニメタイトルが増えていきます。

  • 『青の6号』(1998年)
    ©1998小澤さとる/バンダイビジュアル・EMI Music Japan
  • 『千年女優』(2002年)
    ©2001千年女優製作委員会
  • 『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)
    (C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団

アニメの発展が続く21世紀初頭

かつては考えられなかったようなことも次々と起きます。映画興行では宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年)が興収308億円と現在まで続く不動の第1位を記録し、翌年に米国アカデミー賞アニメーション部門を受賞します。ハリウッド映画『マトリックス』(1999年)のヒットは日本のアニメクリエイターたちが結集した短編オムニバス作品『アニマトリックス』(2003年)を生み、かつての合作とは異なるリスペクトとコラボレーションの時代も始まります。
濃厚な作家性を感じさせる作品も続々と登場し、アニメの可能性を拡げます。今 敏監督の『千年女優』(2002年)や『パプリカ』(2006年)は、『AKIRA』から連なる精密でリアルな映像をより進化させた作品で、国際的にも高評価を獲得しました。若い観客層と新しい作り手の距離も近づきます。細田守監督の『時をかける少女』(2006年)は小規模公開の映画からスタートし、ネットで高評価が拡散して観客が増加、奇跡的なロングランを達成しました。同年、テレビでは『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)がヒットしますが、これもネット時代の感性を取り込んだもので、動画サイトやブログの流行が評価の流布に寄与した結果です。同じ京都アニメーションの『らき☆すた』(2007年)は、埼玉県の鷲宮神社周辺という実景をアニメの中でリアルに再現し、ファンがロケ地を来訪する「聖地巡礼ブーム」を活性化していきます。
磯光雄監督の『電脳コイル』(2007年)は、ネットやデジタルデバイスを所与の環境として生きる子どもの感性を予見的に描いた作品です。「電脳メガネ」というAR(拡張現実)に近い技術を設定、現実の街に電脳世界のレイヤーを重ねて描写する様は、まさに「ポケモンGO」を先取りしていました。3DCGと手描き2Dのハイブリッドも進化します。『マクロスF』(2008年)では可変戦闘機バルキリーの変形や戦闘を3DCGで描くとともに、アイドル歌手のライブステージへCGの自由で立体的なカメラワークを適用。アイドルをモチーフにしたアニメ作品群が増加したときのステージ演出の原点となっています。
このころから地上波放送は2011年のデジタルへ完全移行が射程に入り、パッケージもHD画質に対応したBlu-ray Disc販売が始まります。ところが世界的にインターネット動画配信が普及したことで、パッケージを商材とするアニメビジネスは急速に縮退し始めたのです。

  • 『千年女優』(2002年)
    ©2001千年女優製作委員会
  • 『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)
    (C)2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団
  • 『ほしのこえ』(2002年)
    (C)Makoto Shinkai/CoMiX Wave

3DCGが変える日本のアニメ

以後から現在までの10年でもっとも大きな変化は、3DCGの比率増大でしょう。輪郭線があってベタ塗りで2D部分となじむ処理の「セルルック」と呼ばれる技法が日本では発展し、3DCGと手描き作画の融合を促進。やがて「フル3DCGアニメ」の作品が増加し、SFアクションもの『シドニアの騎士』(2014年)、児童文学もの『山賊の娘ローニャ』(2014年)など幅広いジャンルに適用され、急速に表現力を進化させます。世界的にはディズニーやピクサーなど輪郭線がなく陰影が無段階の「フォトリアル(写実的)」という手法が主流なので、それと好対照です。
手描き作画も、デジタルの特性をとりいれて発展を続けます。漢字という象形文字をビジュアルとして駆使する新房昭之監督の『化物語』(2009年)、筆のように柔らかいラインと淡い水彩のような色をつけた画調を採用した高畑勲監督の『かぐや姫の物語』(2013年)のように、日本独自のアニメーションの模索と進化が起きていくのです。
こうした流れの中で、2016年に新海誠監督が映画『君の名は。』をヒットさせたことには、次の節目になる大きな意味があると思います。新海監督はアニメスタジオ出身者ではなく、短編作品『ほしのこえ』(2002年)をひとりでつくったことで注目を集めたインディーズ出身のクリエイターです。デビュー時点から3DCGをハイブリッドしたフルデジタル作品を作り、感性と映像を直結させた時期から15年――当時の子どもが成長し、中高生となって『君の名は。』を支持したわけです。
こうした「送り手と受け手の距離の近さ」が生まれたとき、大きな変革が起きるのは歴史の必然と言えます。100年という記念すべき年を越えて、日本アニメの進化と発展は永遠に続いていくのです。

  • 『ほしのこえ』(2002年)
    (C)Makoto Shinkai/CoMiX Wave
  • PROFILE

    アニメ特撮研究家/
    明治大学大学院客員教授氷川竜介

    1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。文化庁向けに「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。近著:「細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション」(2015年)など。

  • アニメワールド
  • 龍の歯医者 BSプレミアム 2017年2月放送
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