『エリン こぼれ話――原作者のアニメ監修日誌――』(9)
第9回 アニメ・オリジナルの仕掛け
石田彰さん@ダミヤと、鈴村健一さん@イアルのイケメン対決(?)、いかがでしたか?
おふたりの声の演技は素晴らしくて、感情を抑えた静けさの中に、一本ゆらがぬ筋を見せる鈴村健一さん@イアルと、ときに明るく、ときに冷徹に、滑らかに印象を変える石田彰さん@ダミヤのやりとりは、アフレコ・ルームで聞いているだけで、鳥肌が立ったほどでした。
ところで、この45話「かごの鳥」の、もうひとりの主役キリクは、アニメ・オリジナルのキャラクターでしたから、今回は、「アニメ・オリジナル」の仕掛けについて、書いてみようと思います。
作家は誰でもそうだろうと思いますが、物語という布を織るときは、どの糸もすべてが活きるように、気もちを隅々にまで行き届かせて織っていきます。
ですから、いったん仕上がった物語に、後から別の糸を入れるのは、とても難しいことなのです。
『獣の奏者エリン』の場合は、一年もの長い時間をかけて、浜名監督や布施木さん、藤咲さんたちとともに、一度、丹念に、原作という「物語の布」をほどき、新たに、「子どもたちも、大人たちも、共に楽しめる色合いの布」になるように様々な糸(キャラクターやエピソード)を加えながら、織り上げるという作業をしました。
その作業の中で最初に生まれたオリジナル・キャラクターが、ヌック・モックたちでした。
このアイディアが監督たちから出てきた当初は、私は正直なところ、「え? そこまで色を変えちゃって大丈夫かな?」と思ったものですが、私には「物語」は見えていても、アニメになったときの印象の流れを予測することはできませんから、子どもたちの気もちをたすけてくれるキャラクターになる、という監督たちの言葉を信頼して、お任せしたのでした。
結果は、お任せしてよかった! と、つくづく思っています。
『獣の奏者』という、この重い物語を、ヌックとモックが、どれだけ救ってくれたことか!
プロといえば、藤原啓治さん@ヌックと、柳原哲也さん@モックはもう、実に素晴らしいプロなのです。彼らの、アドリブ満載のやりとりが始まると、アフレコ・ルームの空気は一気にやわらぎ、みんな、思わず笑ってしまうということがよくありました。
ジョウンのオナラ設定とともに、このアニメ・オリジナルのキャラクターたちは、つらい道を歩みつづけるエリンをなぐさめ、同時に、見てくださっている子どもたちの心もなぐさめてくれたのでした。
しかし、キリクは、ヌック・モックたちのように、いわば物語の外にいて息を抜かせてくれるキャラクターとはちがって、物語を織る糸として関わってくるキャラクターです。
そして、彼のようなアニメ・オリジナルのキャラクターが見事に活きたお陰で、『獣の奏者』は『獣の奏者エリン』という新たな布になっていったのだと、私は感じています。
「掟」という言葉で象徴されている、社会が生み出していく様々な制度のしがらみに捕えられ、もてあそばれる、ひとりの人間としてのキリクが、ゆっくりと立ち上がってきたとき、影によって物の輪郭がくっきりと浮かび上がるように、エリンやイアルを捕えているものが、はっきりと見えるようになってきて、ああ、これはすごいな、と、思ったのでした。
そして、もうひとつ。キリクというオリジナル・キャラクターが活きたのは、キリクを演じてくださった声優の楠田敏之さんのお力が大きかったと、私は感じています。
楠田さんは、原作を全巻丹念に読んでくださっていて、その上で、キリクというオリジナル・キャラクターに命を吹き込んでくださいました。
楠田さんは、なにしろ、本気で「エリン」に入れ込んでくださって、ご自分の出演がない回でも、監修ルームの方に座っておられて、「これも、いい勉強になりますから」とおっしゃるような方なのです。そういう彼だからこそ、キリクというオリジナル・キャラクターを、エリンの物語世界に、見事に溶け込ませてくれたのでした。
ちなみに、打ち上げパーティの後の二次会は、七瀬ちゃん@エリン、平田さん@ソヨン、石田さん@ダミヤなど、声優さんたちがわ~っと参加してくださって、超豪華なカラオケ大会になったのですが、そのとき、楠田さんが歌ったのが「浪漫飛行」で、歌いだしに「タ~ヤ~!!」と叫んでくださったもので、みんな、大爆笑でした。なるほど、それで「浪漫飛行」かい! と。
藤原さん@ヌックの「TSUNAMI」は鳥肌ものでしたし、柳原さん@モックの「DESIRE」も、なんという声が出るんだ! と驚くような上手さで、みんなを乗せてくださいましたが、七瀬ちゃん@エリンが「浪漫飛行」も「DESIRE」も知らないとわかったとき、アラフォー組は、ものがなしい気持ちになったのでありました(笑)。
次回46話は、いよいよ、イアルとエリンの互いに対する思いを正面から描いた回です。
原作ファンも待ってくださっている回かもしれませんが、映像になってみると、原作より、もうちょい、もろ ♥ 、かな? ですので(笑)、お楽しみに!
上橋菜穂子



