DATE: 2009年10月31日 (土)

『エリン こぼれ話――原作者のアニメ監修日誌――』(6)

 
第6回 大公の誕生


42話で、大公の息子シュナンは、これまでの大公であれば、絶対にありえなかったことを、真王に対して行ないました。
でも、国を守っている防衛軍であるはずの彼らが、なんで、あそこまで不当にあつかわれているの? と、疑問に思った方も多いかもしれませんね。

それは、「大公」という位が、なぜ生まれたか、ということに、深く関わっているのです。

「大公」という位は、なぜ生まれたか

アニメでも何度か登場してきている、初代の大公ヤマン・ハサル。彼は、どんな人だったのでしょうか。

リョザ神王国を開いた王祖ジェは、かつて、自分が、多くの人々と獣を殺し、ひとつの国を滅ぼしてしまったことを激しく悔い、なんとかして、戦をしない国をつくろうと考えました。
王獣という、決して人には慣れないと思われていた獣を従わせられる彼女に、人々が驚き、神さまのような人だ、と感じていることを利用して、ジェは、自分が「清らかな神の子孫」であることを人々に信じさせ、その言葉を、神の言葉として絶対に守らせるようにしたのです。
ジェは、いかなる理由があろうとも、人が人を殺すことを許しませんでした。人の血で穢れた者は、ヒカラ(地獄)に落ちる……リョザの人々は、それを信じていたのです。

ところが、ジェから4代後の王の時代、隣国のハジャンが、リョザに攻め込んできます。
王は、ジェの思いを受け継いでいましたから、戦をせずに、自分の首を彼らに差しだし、服従しようとしました。
そこに登場し、彼女をいさめたのが、ヤマン・ハサルという男だったのです。
王がお命を差しだしても、そのお心が、ハジャンに通じることはない。ハジャンがこの国を征服すれば、苦しむのは民である、と彼は王に進言します。
そして、神宝<闘蛇の笛>を、自分に与えてくれ、と頼むのです。

ヤマン・ハサルは賢い男でした。
こう進言しながらも、彼は、そうやって一度でも闘蛇を武器として使い、隣国と戦をすれば、リョザはもう二度と「戦をしない国」としての清らかさは保てないだろう、と、わかっていたのです。
彼は、自分の判断によって、これまで平和であったリョザという国が、戦を好む国になっていくのを恐れました。
そこで彼は、王に、自分は「例外」になりましょう、と言ったのです。

リョザという国を守るために、闘蛇を使って戦はするが、それをこの国の慣例にしないために、自分は山の向こう側に出て、そこで家臣たちと共に住み、この国を闘蛇で守るが、二度と、山のこちら側には戻ってこないと。

王は彼の心に打たれ、彼を祝福し、そして、彼の覚悟を受け入れました。 こうして、「大公」と、彼が支配する「大公領」が誕生したのです。

しかし、人の業は、やがて、ヤマン・ハサルの思いを裏切っていきます。
ヤマン・ハサルの孫の時代になると、闘蛇という圧倒的な軍事力をもつ大公の軍は、広大な地域に、勢力を広げるようになるのです。
そして、その地域から莫大な富を得、大公領民は豊かになります。

清らかで平和を好むが、貧しい真王領民。
悲惨な戦をせねばならず、血で穢れ、蔑まれているが、豊かな大公領民。

この二つの民の、様々な思いが、国をきしませていったのでした。

現在の大公の次男ヌガンは、ヤマン・ハサルにあこがれ、国を清らかに保つために大公が穢れをあえてかぶるという形こそが素晴らしい、と信じています。

一方、長男のシュナンは、国はすでに、ヤマン・ハサルの時代からは、大きく変わってしまっているので、その現実を見すえて、新しい道をみつけなければならない、と考えたのでした。

しかしまあ、恋というのは、理屈が先行すると、とたんにヤヤコシクなってしまうもので(笑)、セィミヤがああいう態度に出たのはアニメオリジナルですが、さもありなん、という気がします。
スタッフたちとは、アフレコ・ルームで「シュナンが雨に濡れたら、なんか、ヤバイくらい良い男になっちゃって、ズルイよなぁ、お兄ちゃん」「あれじゃ、ヌガンがひがむわけだよな、やつの髪は濡れてもああならないもん」などという、しょうもない話をしていたのでありました。

ところで、来週放送される43話「獣ノ医術師」では、原作読者たちが「あの場面、ほんとうにアニメでやるの?」と噂していた場面を正面から描いています。
つらく厳しいシーンですが、獣と生きるということは、こういうことを含みこんでいるのだと、はっきりと伝わってくるシーンになっています。

実は今週(10月28日)、エリンは、最終回のアフレコを無事終えました。
その様子や、打ち上げのお話は、おいおい、機会を見て、こぼれ話でもとりあげますが、打ち上げパーティでのトークで、お二人の方が、この43話「獣ノ医術師」のある場面に、心から感動した、と話してくださいました。
そのうちのお一人は、石田彰さん@ダミヤで、彼がどういう部分に心を動かされたとおっしゃったのかは、次の機会にお伝えしますね。

ちなみに、私も、そのシーンに深く心を動かされました。
43話、お楽しみに。

上橋菜穂子

投稿時間:18:50 | カテゴリ:獣の奏者エリン | 固定リンク  | トラックバック(1)

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獣の奏者エリン42話

最初から、こんな事書くのもあれなんですが、 実は獣の奏者エリンを初めて見たのは、実は先々週。 それこそヤフーで、 「泣けるアニメは?」 ...続きを読む

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